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第12話

息を整え噴水前で辺りを見回して、衣服の乱れを直した。まるで始めてのデート前にドキドキと胸を高鳴らせているみたいだと自重する。 清藤と二人で出かけられるだけでいい。自分を気にかけてくれているだけで。そんなことを思いながら時計を覗いた。 「お待たせ」 肩を叩かれ振り向いた先には、課長の鎧を外した柔らかな空気を纏う清藤が立っている。 「お、お疲れ様です」 声が上ずり吃ってしまった。それをなんとも思っていない清藤から煙草の香りがした。 「もしかしてお待たせしましたか?」 その先にはスモーキングスペースがある。待たせていたのなら申し訳ないと少し下にある瞳を見つめた。 「一服したぐらいかな。そんなに待ってないよ。何が食いたい?取り敢えず居酒屋でいいか?」 どこだっていい。清藤と行けるのならどこだって。そんな想いをひた隠し、「はい」と頷いた。 ガヤガヤと煩い居酒屋を想像していたのだが、連れて来られた居酒屋は、一見料亭のような物静かな完全個室になっている居酒屋だった。 時折、どこかの部屋から笑い声が漏れてくるくらいで話し声さえ聞こえてこない。 「いい店だろ。ここでならゆっくり話せる。真田は…何か、俺に何か言いたいこと、いや聞きたいことがあるんじゃないか?」 手拭きで手を隅々までで拭きながら真正面に座った真田を見つめた。そのいきなり突然の問いかけに何がどこでバレたのかと思考は停止し、真っ白になった。 昨日気付いた自分の気持ち。無自覚に垂れ流すものなど、今日は時間的になかったはず。それなのにどこでどうバレたのかと焦り言葉に詰まった。 運ばれてきたビールのグラスを合わせ、半分ほど一気に飲み干した。 走って喉が渇いたのと、バクバクと脈打つ心臓とで喉がカラカラに渇く。 一息つき、これはある意味チャンスなんじゃないかとふと思った。清藤なら仕事に私情は挟まない。それ以前に就業中に挟む時間はない。 この先、変態扱いをされたって、それは清藤の心の中でだけだ。風潮して回る人ではないと信じたい。 男の清藤に…告白して砕けたって…この先、燻らせていく思いなら…燻らせる性格ではない自分はきっと終止符を打ちたくなる。なら、遅かれ早かれ告白をすることになる。それなら… 「清藤さん、俺、企画に移動になる前から…貴方に憧れてて…好きなんです…貴方のこと…」 清藤の問いに勢いをもらうことにした。思いのほかスラスラと言葉は溢れていった。気持ちに気付いて速攻告白なんてことは今までなかった。ないといっても、一人しか付き合ったことはないのだか。 「ん…それって、恋愛対象でってこと?」 真っ直ぐに見つめてくる琥珀色の瞳。室内の灯りでは少し濃く見える。腕を組み真田の返事を静かに待っている。 一応は聞いて考えてくれるのだと…その瞳をしっかり見つめ返し言葉を選ばずそのままの気持ちを伝えることにした。

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