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第13話

見つめ合ったまま時間は流れていく。上手い言葉を探そうとしてもきっと取り繕ってしまいそうで、それなら想いのままを話して砕けたほうがいい。 空腹に流し込んだビールは体に染み込んでいき酔いを誘ってくる。 「昨日…この気持ちはなんなんだって考えたんです。清藤さんのことが気になって…いや、ずっと前から憧れてはいました。それがなんなのか…昨日気付いたばかりで…上手く言えないんですけど…恋愛対象として清藤さんのこと好きみたいです」 他人事のような科白に、言葉が見つからないもどかしさはあった。一世一代の告白なんてしたことがない。元カノとはそう言った告白的なものはなかった。まして男に告白なんてことは思いもよらなかった。 「真田は女、好きだよな?」 「はい」 「男を好きになったことは?」 「ありません…」 「そっか…告白は?したことある?」 「…ありません」 黙り込んだ清藤を見つめたまま気不味い空気が流れる。店員が頼んだ物を運んできてくれたおかげで空気を変えてくれたことが有り難かった。 「…とりあえず、お試しで付き合ってみるか。お前可愛いしな」 砕け散って清藤の中で変態レッテルを貼られる覚悟だった真田は『お試し』でも付き合うと言った清藤から目を逸らすことができなかった。 「…俺、男です…」 「そうだな」 「清藤さんは男と付き合ったことあるんですか?」 「ないな」 「…分かってますか?…こ、恋人って…ことですよ…?」 「まあ、お試しだけどな。お前可愛いし、蓮根食ってくれるし。いんじゃねーの。付き合ってもいいと思ったんだから」 「…可愛いって…どこ見て言ってるんですか…」 背だって清藤より高い。カッコいいとは言われたことはあっても可愛いなんて言葉は幼い頃にしか聞いたことがない。それを…清藤は可愛いと言う。 「で、どうする?お試しで付き合ってみるか?」 琥珀色の瞳が真っ直ぐに真田を見つめる。昨日気付いた気持ちがこんな形に変わるなんて想像を超えてフリーズしてしまう。思考が停止しても、ただその瞳が嘘や揶揄っているようには見えなかった。 「付き合います、付き合ってください…」 「おう、よろしくな。それにしてもいいもんだな、告白されるのって」 呑気そうに箸を持ち、蓮根のはさみ揚げを取り皿に取り、差し出す。 「あんた、蓮根食わねーのになんで頼むんだよ…」 「そりゃ、お前に食わせるためだよ。好物だろ?」 別に嫌いではないが、好物というわけでもない。ただ、あの時は一つ残った蓮根の天ぷらが遠慮がちに端に追いやられていたから食っただけだ。 「食ってる真田は可愛いしな」 「可愛い、可愛いって…年下だと思って…」 「そんなことは思ってないぞ。可愛いものに理由なんてないだろ。俺が可愛いって言ってんだからそうですか、嬉しいですって受け取っとけよ」 「じゃ、清藤さんは綺麗です…何しててもどこから見ても…」 恥傾げもなく男に綺麗と言ってのけたのは飲みきったビールのせいにでもしておこう。皿から視線を上げその様子を伺い見れば、テーブルに肘を突き口元を覆う赤い顔をした清藤と目が合った。 (可愛いのはどっちだよ…) 「お前…反則だわ…かっこ可愛いってやつか…魔性め…」 魔性って…それはあんただろ。そう思ったが口には出さず、ちゃんとしなくてはと居住まいを正した。 「清藤さん、お試しでも俺の気持ちに応えてくれてありがとうございます。よろしくお願いします」 深く頭を下げれば清藤が奇声を上げた。 「なんだよ、律儀か!振り回されそうだよ、まったく」 それは、こっちの科白だと真田は笑った。清藤が受け入れてくれるとは思ってもいなかった。その先に起こることは何も考えず、清藤に対して好きが溢れてくることに戸惑いながら胸がいっぱいになっていった。

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