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第14話
今日、出向いた営業先での仕事の話をしながら真田は清藤の仕草や所作を目で追っている。
仕事では見せない砕けた清藤は、ふとした目線や枝豆を頬張る色っぽい口元、ビールを飲む度、プパっっとでもいいそうないい飲みっぷりを見せる。この仕草が可愛く、自分より年上だということを忘れさせるほど愛らしかった。
部長はこんな清藤を知っているんだろうか。あの親しげな光景を思い出し、酔いに任せて口から溢れた。
「清藤さん…二宮部長と仲良いですよね…」
聞き役に回っていた真田の口から意外な人の名前が出て清藤の笑みが消えた。
「上司だからな、それにあの人を尊敬してる。飴と鞭を使い分ける達人だ。それに乗っかって俺は課長になれた。でもお前が心配するような事は何もないぞ」
ちゃんと真田を気遣う言葉をかける。清藤がそう言うのならその言葉を信じるしかない。
「清藤さんが、そう言われるなら、その言葉を信じます」
「お前って…束縛体質?」
「いえ、そんな事はないですけど…嘘だけは嫌ですから」
「…裏切られたのか?」
「まあ、そんなところです。もう思い出したくありませんけど」
空気を変えてしまったのではないかと内心焦った。いい感じで酔い砕けてきたのにと。だが、酔いは回っているようで、ふわりとした雰囲気はまだ続いていた。
「そっか…それで…でも俺は裏切ったりしないぞ。裏切る前に別れるから」
「そんな縁起でもない。まだ始まったばかりですから」
「はは、そうだよな。俺達はこれからだもんな。なあ、真田ぁ、そろそろ下の名前で呼んでみ?」
突然の爆発発言に真田は身体を反らした。いきなり何を言い出すのかと。治ったはずの鼓動が慌ただしく打ち始める。
「ほら、呼んでみ?まさか、知らないとかいうんじゃないだろうな」
頬を酒に染められて可愛い顔で言ってのける。一方真田は一気に酔いが覚めていくようだった。
「…友海さん」
「なんだよ、元希は可愛いな」
名前を呼ばれただけでボルテージが上がった気がした。どうしたいんだと頭を掻きながら睨みつける。
「その目は好きな人に向ける目じゃないだろ。これから二人の時は名前呼びな。それ以外は受け付けないから」
結構酔っ払っていることが判明した。きっとシラフになったら、清藤は呼ばない気がする。
「酒が抜けたらもう一度聞きます。忘れてそうだから」
「そんなことないぞ。ちゃんと覚えてるから」
ガクンとテーブルから肘を外す。相当酔ってるじゃねーか。そう思いながら清藤の腕を咄嗟に掴んでいた。
「ああ、ありがとう。酔ってきたかな…」
(いや完全に酔ってるから)
そんなツッコミはせず、清藤の側に行き背もたれになってやろうと移動する。
それを嬉しそうに見上げ、清藤は嬉しそうに真田に手を伸ばした。
「なあ、キスしてみる?」
酔っ払いの戯言で、流されたくないと左右に首を降る。
「酔ってない時にしましょう。大事にしたいんで」
酔っ払っているくせに腕を掴む力は強い。離さないとでも言いたげなその手にそっと触れた。
「逃げないんで、そんなに強く掴まなくてもっ…!」
その言葉の最後は重なった清藤の唇へと消えていった。
優しく触れる柔らかい唇。男とキスなんてしたことがないが、女とさほど変わりはない。
合わさった唇から甘く誘うように舌先で真田の唇を舐め誘ってくる。隙間を作れと言わんばかりに。
その先を期待はしている。怖いような、でもその舌に自分の舌を絡めたい欲望が湧き上がっている。理性を壁に出来ないくらい真田も酔っていた。
酔いに任せず、シラフの時にしたいと思っていた。目の前に座る清藤に何度も射抜かれ溢れそうになる感情をひた隠しに理性を総動員していた。
そんな真田の気持ちを知らずに酔っ払った清藤は唇を押し付けてくる。
離した唇から赤い舌が覗く。理性がグラグラと揺らぎ、真田は清藤を抱き寄せた。
「酔って、忘れたとかナシですから。ちゃんと覚えててくださいよ。俺達の初めてなんですから」
ゆらゆらと潤んだ瞳は妖しく真田を誘う。もう限界に達した真田の理性は音を立てて崩れ、誘う赤い舌を絡め取るように熟れた唇に引き寄せられ隙間なく合わせた。
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