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第15話

酔った勢いとは怖いものだと清藤に煽られ深くなっていくキスにこれ以上はマズいと抱きしめた手を緩め身体を引き離そうとした。 髪の中に差し込まれ後頭部を掴んでいる手に力がこもる。それは嬉しいことなのだがここは個室だといっても居酒屋だ。これ以上はマズい。 キスの延長に何があるのかは大人なら想像はつく。離れがたいが最初のキスが酔った勢いで居酒屋だということにどうしても違和感でしかない意外にもロマンティストな真田は仕切り直しがしたかった。 いくら上司で男同士だといえど、これから付き合っていこうとしている相手だ大切にしたい。自分が焦がれ求めた初めての相手なのだから。ゆっくり身体を引き剥がし潤んだ琥珀色の瞳を見つめた。 「友海さん…これ以上はマズい…それにこれはカウントに入れませんから…」 「なんだよぉ、カウントって」 不服そうに潤んだ瞳で見つめてくるその色香はすざまじい破壊力を持っていて、くらりと目眩がしそうで正気を失わせていく。 「最初が酔って居酒屋なんて、カウントに入れないってことです。それにあんた…酔ったらいつもそうなんの?」 濡れた唇で微笑む清藤は壮絶な色香を放ち、首元に絡みついたまま首を傾げた。しなだれかかるように肩先に頭を付け擦り寄ってくる。それはもう理性という名のやや高めの壁を簡単に壊していく破壊力。このまま押し倒してしまいたい衝動に駆られる。 そんな真田の気持ちなど知りもしない清藤はふふっと笑みを浮かべ手を緩めようとはしない。 「今日は気分が良いからな…このままお前んち連れてってくれ」 「なんの拷問ですか?襲われたいんですか?」 「ふふ、いいねぇ…」 「いいことなんて…あ、ちょっ!」 首筋にキスを落としペロリと舐め上げる清藤の舌にぞわぞわと背中が粟立つ。身体を預けきる清藤を抱き締め体制を建て直すフリをした。 (やべっ!とりあえずここから出よう) こんな酔ったまま帰すことはできないし、自宅へ連れて行くにも今の清藤は拷問だと真田の酔った頭は回らない。 だかここでは駄目だと少しの理性が脳裏で叫んでいた。 「誘ったのはあんたですからね、どうなっても知りませんよ」 「雄の顔ぉ〜真田はかっこいいなぁ、俺どうなっちゃうんだろ…怖いぃ」 怯える言葉を呟きながらも擦り寄ったままの清藤は頬にキスを降らせ耳朶を甘噛みしていた。 (煽ったのはあんただから…) そうこの先を期待している真田はこじつける理由が欲しかった。昨日気付いた気持ちを今日伝えた。その日のうちにキスまでもしてしまい、これから自分の部屋に清藤を招き入れる。 それがどう言うことなのか。この酔っ払いはわかっているんだろうか。店員を呼ぶブザーを押し、部屋の隅に鎮座する綺麗に畳まれた上着を清藤に羽織らせた。 会計を済まし、店の外に出れば冷んやりとした空気が酔いを和らげてくれる。脇を抱え上げ、酔っ払った清藤の腕を肩に回した。 あの日、向かい合う駅のホームで二宮部長に甘い視線を見せていた清藤の肩を抱いてのは、もしかして泥酔していたのかもしれないと思った。部長に抱き支えられていたんだろうか… 酔っ払って瞳を潤ませて見つめていたのは部長に何か意地の悪い事を言われたのかもしれない。それで恨めしそうに見たのだとしたら…? 都合のいい解釈が頭に浮かんだ。それでもあの潤んだ甘い視線はいただけない。 今日から自分のモノになったのだから自重ということをこの人に教えなけれないけない。 酒の席で飲む量と誰彼構わずその琥珀色の瞳を潤ませて甘く見つめてはいけないこと。 その前にこれはこの人の策略なのかを見極めなければいけない。無自覚であれば自重を教えなければいけないが、意図を含んでいるのであれば、厄介な魔物を好きになってしまったことになる。 自分を狂わせようとする引き出しを沢山持っているのであれば扱いは難しい。それも三日と数時間の始まりなのだから、真田にはわからないことばかりだ。もしかしなくても清藤の手のひらで転がされているのかもしれない。 そんなことを考えていても千鳥足の清藤をしっかりと抱え、身を委ねてくれているこの状況は嬉しくて堪らなかった。これからの清藤との付き合いにワクワクと心は弾み、自宅への道のりは真田にとって雲の上を歩くようでふわふわと心地よく二人の世界に酔いしれていた。

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