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第19話
「そんな風に甘やかして…知りませんからね」
誰かの為に何かをしてやりたくなる感情、それが何かはわかっている。好きな人にならなんだってしてあげたいと思う。
自分の気持ちを押し付けた形で受け入れてくれるだけでも嬉しいのに、なんでもしてやりたいなんて言われれば堪らない気持ちになる、清藤も自分を少しでも好きでいてくれるだけで嬉しさは増す。その比重は自分の方が重いとしてもここにいてくれるだけでいいのだから。
「今日は泊まっていんだろ?シャワー貸してくれ。それからもう一回しようぜ」
えらく食い気味な清藤に押されていると怯みながらも風呂場へと案内した。
昨日清藤を想って自慰をした場所に清藤が入っていく。自重気味に扉が閉まるのを確認してタオルと着替えを出して置いた。
下着一枚のままソファに座り身体を沈めた。自分のテリトリーに清藤がいる。風呂場からシャワーの音がリアル聞こえる気がした。
もう一回しようぜと清藤言った。なんでもしてやりたいとも。それは自分を受け入れてくれるつもりでいるんだろうか。
慌てて脱ぎ捨てた上着からスマホを取り出して検索を始める。男同士のなんたるかを受け入れてもらうのなら調べておきたい。おお予想のことはわかっているつもりでも清藤だって気持ち良くさせたい。そんな技量が自分にあるのかはさて置き、熟知しておいて損はしない。
開いたページは長く連なる文章でそれを慌てながら早読みしていく。
…ローション…あったかな…
代用になるものはあるだろうかと頭を捻りなから先を急ぐ。
…ゴムはある…
この部屋に女を入れたのは大学時代の彼女だけだ。その後はホテルだったり、女の家に行ったりでここに入れたことはない。だが、これからも続くであろう元カノとの為に買ったコンドームはある…
この部屋は気に入っている。ここで暮らしてくのにいつか別れる女を入れたくはなかった。
もうこの部屋に来ない人の残像に気持ちが沈むあの感覚はもう味わいたくはない。
それほどまでに自分が傷付いていることを自覚させられ長く真田の心を苦しめた。
途中から気が逸れたスマホの画面に影が落ちた。ぼんやりしている間に清藤はシャワーを浴び頭を拭きながら側に立ってその画面を覗き込んでいた。
「やっぱ調べるよな。俺も調べようって思ってたんだよ。元希とは繋がりたいけどさ、痛いのは嫌だしな。お前を気持ちよくさせてやりたいし、俺も気持ちよくなりたい。それで?なんて書いてあった?」
さっきからの違和感の原因がわかったような気がした。
清藤は男同士だというのに躊躇いが無さ過ぎる。気持ちが通じ合って段階を踏んでいこうとしている真田とは反対に、なんの躊躇いもなくしかも受け入れようとしている。
ほんの二時間程前に告白したばかりだというのに性急過ぎやしないかと不安が立ち込める。
「なんでそんな顔で見るんだよ。お互いが気持ちよくなるセックスしたいだろ?」
そこではない。気持ちいいセックスはしたい。が、そこではない。
真田はスマホの画面を消し、清藤の手を引いて隣に座らせた。
「友海さん、あんた俺の気持ちに応えてくれたのは嬉しいけど、あんたはどれくらい俺のこと好きなんです?俺は昨日確信して今日伝えたんです。俺が告るまでそんな感情なかったでしょ?躊躇いや戸惑いってのはないんですか?突っ込まれようとしてるんですよ、もうちょっと戸惑ってください」
繋いだままの手を清藤は持ち上げ真田の手の甲にキスを落とし上目遣いで視線を合わせた。
「お前、ほんとカッコいいのに…可愛いな」
訳の分からない返事に困惑する。それでも目の前の琥珀色の瞳はまた妖しく真田を誘っている。
性に明け透けな人なんだろうか。それならこれから思いやられるのではないかと不安になる。
その手は真田の後頭部に回り、ボディソープの香りを漂わせながら抱きついてきた。
「可愛いなって思ったのは蓮根食ってくれた時が始めてだけど…営業にいる時から知ってたし、お前が別れる時の冷めた目も知ってる。ずっと興味は持ってた。告白されて、なんだか必死なお前が可愛くて、そんなお前に愛されたらどうなるんだろうってワクワクしたよ。だから付き合うことにした。遅かれ早かれこういうことはしたいと思ってる。なら時間を共にできる今したいと思ってるんだけど」
そうだった…この人はせっかちだった。早食いも早足も迅速な行動も…
想定できる話だった。多忙を極める企画部でこんな風に時間を共有できる日がこの先いつあるかわから ない。
それに人より仕事が多い清藤が自分の為に仕事を切り上げてくれた今日のような日が次はいつなのかさえわからないのだ。
繋がれる時に繋がりたいと思うのは…この人の行動力ならあり得ることだった。
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