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第21話
ベッドに横たわる清藤は壁際に背を向け、入れと言わんばかりに掛け布団を剥ぎ微笑んでいる。その横たわる姿がまたなんとも妖艶な色気を放っている。
社会に出て学生時代の貯めていたバイト代でこのベッドを買った。大きな物を一人で買うことがどこか大人になったようで嬉しかった。寝室をほぼ占領しているこのベッドは彼女が泊まりにきても充分過ぎるくらいの広さのものにした。
結局彼女がここに泊まったのは数えるほどだったが。
身体を滑り込ませ清藤と向かい合う。顔に掛かる髪を梳き流すように耳元に収めていく清藤をくすぐったくなる気持ちを抑え見つめた。
「それで?聞きたいことってなんだ?」
身体の下敷きになっている左腕を引き上げ自分の頭の下に敷く。所謂、腕枕というやつだ。嬉しそうにいい位置を探しながら真田と向き合う。
「俺の冷めた顔ってなんのことです?」
自分で言ったくせに考えるそぶりを見せ、瞳をゆっくり閉じそして真っ直ぐに見つめ直す。その一連の仕草は色っぽく無意識にしているのなら、大変なことだと何故かその腰を引き寄せた。何処かの誰かにいいように勘違いさせていたらと苛立ちと不安が押し寄せる。
「お前が彼女と別れ話をしてるところを偶然見たんだよ。ゾクゾクしたよ。だってお前の方が辛そうな顔をしてたからな」
辛そうな顔を見てゾクゾクする…ドSなのか…?そう思いながら敢えてそこはスルーした。やっぱり見られていた。御託を並べ彼女を追い込んだ。いや、言葉を挟むことをさせなかった別れ話を。
「やっぱり見られてたんですね…でも俺、お飾り彼氏だったんで」
「お飾り?」
「合コンで知り合ったんですけど、自分で言うのもなんですが…いい男を連れて歩くお飾りみたいなものだったんです。現に彼女はここにも来たがらなかった。着飾って見せびらかすみたいな感じです」
「ふーん、それを了承して付き合ってたのか」
「まあ、そんな軽い感じがその時の俺にはよかったんで…」
誰でもよかった。そういってしまえば身も蓋もないが、次の恋に行けるほど立ち直れていたわけじゃなかった。ただ、深く付き合うことがないだろう相手を選んだ。現に彼女は人が多くいる所に行きたがった。人がいなければベタベタしてこない。誰かがいれば自分のものだと見せる態度はあからさまだったのだ。
彼女が望むように操られてやった。それでも一人でいるよりマシだったからだ。そんな時、清藤を知った。出来る男はサマになっていて、憧れるようになっていった。
「まあ、色んな付き合い方があるからな…それで元希が傷付いてなければいんだよ」
傷付いたりしていない。彼女には申し訳ないが仕事を選んだ。生半可並べた御託は嘘ではない。
「申し訳ないとは思いましたけど…そう長くは続かないだろうとは思ってたんで…」
視線を逸らさず見つめる琥珀色の瞳はルームライトでキラキラと光を醸し出す。惹き込まれそうな感覚に瞬きを忘れて見入ってしまう。
「お前はちゃんと目を見て話してくれるよな。嬉しい」
こんな至近距離で視線を泳がして話せるわけがないが、昔から親に言われ続けられたことだ。
『人の目を見て話しなさい』
伝えたいことも伝わらないと母の口癖だった。
「友海さんの目は少し明るい茶色で、その瞳に俺だけが映ってることが嬉しんで、つい瞬きを忘れて…」
「お前な…それ作ってんの?」
「何を作るんです?」
「無自覚かよ…誑しめ…」
言っている意味がわからないと真田は首を傾げた。それでも清藤は怒ってなどいない。むしろ、照れているように真田には見える。その意味は真田には伝わっていないことに清藤は自分の言葉に照れてしまったのだ。素のままを見せてくれることが嬉しいと喜んでしまう自分もいるのだが。
「そんなお前は俺の前だけにしておいてくれ。可愛すぎてライバルが増える」
「意味わかんないんですけど」
「わからなくてもいいから。ここでだけな」
「友海さん、顔真っ赤ですよ?」
「お前な…」
顔を隠そうにもこの至近距離だ。清藤はその首元にしがみつくように抱きついた。なんで照れているのかわからないままの真田を抱きしめる。
「俺にはあんな辛そうな顔見せて別れ話しないでくれよな。笑って別れような」
「縁起でもない。今日付き合ったばっかなのにそんな話しないでください。そんな日は来ません」
「お飾り彼氏じゃないからな、俺の前ではそのままでいてくれ」
「よくわかんないですけど、このままでいますよ。これが俺なんで」
それでいいよ!と投げ捨てるように清藤は言い放った。真田には見えない所でその耳を赤く染めながら。
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