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第22話
翌日、遅い朝食を取り、目の前の清藤は終始嬉しそうにスマホを握り締めながらしきりに何かを打ち込んでいる。そしてスマホをテーブルに置くと煙草を持ちベランダに出ようとする。
普段の素のままの清藤を見られる朝。寝相が良いのか何度か寝返りを打って元に戻ったのか、寝たままの状態、つまりは真田の腕の中で寄り添うように目を覚ました。
それに反し真田は清藤を確認するかのように何度も目を覚ましては、清藤の寝顔を一晩中見ていた気さえしている。その浅い眠りで寝不足のはずが、清藤の寝ぼけ眼での一言で眠気をどこかに飛ばしてしまった。
「おはよ。こんなに眠れたのは久しぶりだ…お前の腕枕、快適だな」
眠いのか目を擦りながらでも焦点を合わせ見つめるその琥珀色の瞳を、朝日がキラキラと輝かせている…ように真田には見えた。そのまま起きるのかと思いきや、またスヤスヤと眠りにつく。どんな仕草であっても清藤は綺麗だった。
髭が少し伸びていいても、意外と柔らかかった髪に寝癖がついていても、清藤は普段より幼さを残し自分の腕の中で眠っている。
その無防備な寝顔は素の清藤を見せてくれる。誰も知らない清藤を独り占めできる幸せは真田の睡魔をどこかに追いやってしまった。
(男の寝顔に見惚れるとか…そんな日が来るなんて…)
それでもこれは憧れていた頃とは違う。気持ちが通じ合ったこの人の全部は自分のものだと知らしめたい気分になる。誰にも触らせない、誰にもやらないと。ふと脳裏に浮かんだ二宮部長を搔き消し、その身体を抱き寄せる。
そんな真田の気持ちなど知らずに清藤はスヤスヤと寝息を立てた。清藤が自分にしたように髪を梳き耳元で収め見る。顔に掛かる髪が耳元で纏められ、その整った顔の輪郭が浮き出る。どこをどうとっても女を感じさせる所はない。なのに清藤に惹かれてしまう。
男を好きだと思ったことは一度もないのに、どうして清藤はこうも自分を惹き付けるのか。そんな分析をしたことろで、惚れているからだと思うしかないのだが。
見飽きることのない寝顔を堪能し続けて、清藤を起こしたのはメールを知らせる電子音だった。
さっきまで嘘寝をしていたのかと思うほど、清藤の手は的確に頭の上に置いたスマホに伸びた。
そして画面を確認すると、急ぎではなかったのか溜息を吐いて真田の腕枕にいい場所を見つけまた瞳を閉じる。
この人は本来眠り浅いのかもしれない。皆より早く出勤し昼の休憩も感じさせない速さで昼食を摂る。
的確な仕事の指示をフロア全体の社員に出す清藤は、いつも神経を張り巡らせている。
寝ている時でさえ、仕事の電話も多いのかもしれない。相手が国外であれば時差はある。その度さっきのように寝ている間でさえ神経はどこか張り巡らせているのかもしれない。
そう思えば、先程の清藤の言葉は堪らなく嬉しいものだ。自分の腕の中で眠るのが快適だと清藤が安心して眠れる場所だと言ってもらえることは、恋人として最高だと思う。
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