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第23話
煙草を吸い終えた清藤は、真田の横に座りテーブルに置いたカップを手にし一息吐く。ぴったりと腕も脚も触れるように真田の隣に座り、それに煽られ真田はピクンと身体を揺らす。
そんな真田に気付かないフリをしているのかインスタントのコーヒーを美味しそうに飲んでいる。この人の口の中に入るものはどれも美味いんだろうかと錯覚させる。
「元希、午後からの予定は?」
いきなり聞かれた週末の予定。いつも同じルーティンの休日は彼女がいないとなれば特に用なんてなかった。洗濯に掃除と買い物で終わってしまう。週末の二連休は真田にとっては暇を持て余す休日に過ぎなかった。
「別にないですよ。洗濯と掃除、買い物で終わりです」
そう答えた真田の顔を哀れむように見つめてくる清藤にどうせ暇人ですよと睨むようにその目に答える。
「そっか、なら、俺に付き合ってくれ。一旦帰って着替えてくるから…あ、そうだな…今日も泊まろうかな…お前と寝ると熟睡できるんだよな…いいか?」
願っても無い申し入れに真田は何度も頷く。長い指先が目の前に伸びたかと思えば、顎を掴んで揺れるだけのキスを啄ばむようにわざと音を立てながら何度も繰り返す。
真田の中で戸惑っていたもの。昨日は飲んで盛り上がって抜き合いをしてしまった。だが、正気に戻れば清藤の反応と空気を緊張しながら見ていたのも事実だった。そんな真田を察してなのか、キスをする行為に音までプラスさせ清藤は真田の緊張をほぐすかのように微笑む。
今更なかったことにはしないだろうが所詮上司だ。恋人同士のように揺れあってもいいのかと不安と緊張から清藤の言動を観察していた真田は、自分を求めてくれている事に戸惑いは嘘のように消えていった。
「そんな心配そうな顔すんなよ。元希は俺の彼氏、恋人なんだからさ。今更なかったことになんかならねーから。その辺の覚悟を決めてくれ」
覚悟なんて告白しようと決めた時にしている。こんな展開になるとは想像もしていなかったが、真田にとっては嬉しいことこの上ない関係になれた。そんな清藤を簡単に手放したりなんかしない。
「覚悟は告白した時にしてます。ただ清藤さんは上司だからどうしたらいいかと…」
「恋人に上司と部下は関係ないだろ?そんなプレイしてみたいの?」
「しませんよ!なんで…そんな…わざわざリアルな…」
「ははっ、二人でいる時はタメ口でいんだよ。俺さ、元希があんたって言うの結構好きだし。でも出来たら名前で呼んで欲しいけど」
飲み干したカップをシンクに置き、掛けてあった上着を来た時のように羽織る清藤の後ろをついて回る真田の動きに笑みが溢れそうになるのを清藤は必死で隠した。それは不安の裏返しなんだということはわかっている。
照れる顔は好きだが、生真面目な真田の無意識な行動は可愛いと思う。ここで仔犬のようについて回る真田を可愛いと言えば困らせるだろうと、緩む口元を引き締めながら玄関に足を向けた。
「ここで待ってて」
玄関まで見送った清藤は振り向いて真田を見上げた。その瞳は真田にはキラキラと輝いているように見えていた。ただ緩む顔が微笑んでいるように見えているのだが、それさえ何故か満たされる感覚に清藤は本当の心からの笑みを見せた。
頷いて清藤の後頭部を掴み、今度は真田からキスをしてくれる。清藤の心はほっこりと温かく満たされていた。早く戻ってこようと清藤は部屋のドアを閉め、いつもより早い足取りで自宅へと向かった。
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