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第24話

洗濯と掃除を粗方済ませた頃、清藤が戻ってきた。 以外にも早かったので、もしかしなくても近い距離に住んでいるのではないかと聞いてみればタクシーで三十分くらいだと言った。そこそこ近いことに気を良くしながら、玄関先で待っている清藤の私服姿に目を奪われていた。 長い脚にはスリムなブラックジーンズ、白いTシャツにジャケットを羽織っている。髪はラフにセットされ、いつもより若く見える。それにしてもスタイルがいいというのは何を着ても似合う。 そしてそこに浮かべる笑顔は仕事中では見られない柔らかな表情。自分にだけ見せてくれていると思えばそれだけで嬉しくなる。 「どこに出かけるんです?」 マンションを出て駅へと向かう清藤の足取りはこの道を知っているように思えた。昨日は酔っていたはず。ならこの辺りに来たことがあるのかもしれない。 「大学時代の友達と会う約束をしているんだ。きっと元希と仲良くなれるはずだから」 隣を歩く清藤の微笑む顔を見ながら内心は大きく戸惑っていた。 大学時代の友人…部下と紹介するつもりなんだろうか。別に付き合っていると言わなくても部下だと言えば疑いはしないだろう。だが隣を歩く清藤は課長の顔を貼り付けてはいない。こんな柔らかな表情や仕草だと怪しまれるのではないかと内心はハラハラし戸惑っていた。 そんな真田の思惑など御構い無しに終始笑顔の清藤は爽やかな顔をして歩いている。 約束の駅に降り立った清藤は腕を覗き時間を確かめると、真田の肘に触れそれが合図のように歩き始める。いつもよりゆっくり歩く清藤は、真田の知っている清藤ではないような気がしてきた。 隣を歩く清藤を横目で何度も確認してしまう。真田の知っている清藤は冷静で静かに罵声を浴びせ有無を言わせない。歓迎会ランチの時も砕けているように見えたが課長の顔をしていた。 今朝帰るときは戦闘服のスーツに身を包み、さほどいつもの課長と変わらない顔を見せていた。部屋を出て誰か清藤にそっくりな人と入れ替わったような変わりように戸惑いながら声をかける。 「友海さん?」 その声で何かを察したのか歩道の側に身を寄せ足を止めた。 「どうした?」 「俺が行っても大丈夫?」 「大丈夫だよ。俺の親友だから何も心配することはないから。気楽にな」 気楽にと言われても真田はすでに緊張し始めていた。入れ替わった清藤とその親友とやらに戸惑っている。引き攣った笑みを見せぎこちない相槌を打てば、清藤はクスクスと目尻を下げて笑う。 こんな表情も初めて見る。入れ替わっていないのなら…普段の清藤はこんなにも柔らかい雰囲気を醸し出す人なのか。 職場で見惚れた清藤は戦闘態勢に入っている兵士の顔で陣を取っている。ここにいる清藤も入れ替わっているはずもない、彼の違う一面なのだと。 ならここにいるのは鎧を脱いだ素の清藤ということになる。誰もがいくつもの顔を持って生きている。鎧を着ていない清藤を見せてくれることに堪らなく嬉しいと思う反面の戸惑い。昨日の今日では仕方がないとこなのだがあまりにも急ぎ足で時が流れているように感じているのは気持ちがついてきていないからだろうか。 それでも恋人だと気を許してもらえているのだとしたら堪らなく嬉しい事だ。 「緊張するなってほうが難しいでしょ、友海さんの親友ですよ。気持ちがついてきてません」 「すぐに追いついてくるさ。どんと構えて恋人ズラしてりゃいい」 歩き始めたその背中に追いつこうと駆け寄る。こうなればなるようにしかならないと腹を括るしかない。 だが気持ちの追いついてきていない真田は清藤の言った最後の科白をすっぽり聞き落としていた。

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