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第25話

待ち合わせの場所へと向かう清藤は、大通りから商店街を抜け昔ながらの酒屋の前を通り、できたてほやほやなのか店先にいくつもの花を飾ったコンビニを通り過ぎた交差点の角にある年季の入った喫茶店の前に立ち止まった。 入り口のドアも所々塗装が剥がれてシャビーな建物が好きな人には堪らない作りの喫茶店のドアを押し開ける。 カウンターと客席の間には通路があり個性的な髭面の店員に手を挙げ迷わず真っ直ぐ突き進む。 十センチほどの段差が所々にあり増改築の名残を見せている店内は薄暗くどう見ても客が好んで入りそうな店ではない。 それにしても奥に深い。鰻の寝床のような建物を清藤は真っ直ぐ歩いていく。その速度はいつもより遅い。今日の清藤は歩くのが遅く、これも素の清藤なのかもしれないと後ろ姿を見つめながら逸れないように後をついて行く。 足元が石畳に変わったその先にはどこかの温室に迷い込んだのかと錯覚させる光景が待っていた。そこには20席ほどのテーブルが並びほぼ埋まっている。隠れ家的なカフェとでもいうんだろうか。それを横目にガラス戸を引き清藤は入って行く。 「おー久しぶり。ここに来るのも久しぶりだろ」 人懐っこい笑顔を見せる黒縁眼鏡の男性が満面の笑みで出迎えてくれた。 「当たったみたいだな」 そう言いながら真田を振り返った清藤は隣の席の椅子を引きここへ座れと促し、真田は戸惑いながらも腰を下ろす。 「みたいだな。やっぱり俺の目に狂いはなかったってことだな」 自信満々に応えたその男に清藤は笑みを浮かべている。 「元希、こいつ三谷翔也。俺の親友」 頭を下げたまま真田は清藤が自分の名前を読んだことにフリーズしていた。真田はてっきり清藤が部下だと紹介するものだと思い込んでいたからだ。まさか二人の時の呼び方で親友に紹介されるなんてことは思っても見なかったからだ。 そしてふと、先程清藤は気持ちはすぐに追いつくと言った。そしてーーー 『どんと構えて恋人ズラしてればいい』 確かにそう言った。それはこの親友に恋人だと紹介するつもりでここに連れてきたことになる。 「き、清藤さん!」 なんだ?とでもいいそうな顔を向けた清藤はああ、と笑いながら頷く。 「さっき言ったろ?」 やっぱりそうだ。清藤はそのつもりで自分をここに連れてきたのだ。焦る気持ちと困惑しながらその顔を見つめる。 「真っ当な感覚の持ち主みたいだな」 「そりゃそうさ、俺が選んだんだ」 自慢げにそう言った清藤に三谷は声を上げて笑った。それを清藤は満足そうに見ている。それだけでこの二人は意気疎通が出来たようで笑い合っていた。 「真田 元希。△△市出身だよ」 今度は出身地を言われてまた固まる。確かに履歴書には書いた。それを上司である清藤が知っていることは不思議なことじゃない。だが何故?ともう真田の頭の中はパニックを上塗りしていた。 「ええ?マジで?!」 身を乗り出した三谷は恋人と紹介された時より興味津々と身を乗り出した。 「こいつも△△市出身なんだよ。同郷なんだ」 それを知って、清藤は会わせようと思ったのか。意味が分からずもう無理だと助けてほしいと清藤の肘に触れる。 その返事は目の前の三谷から返ってきた。 「こいつ変わってるから戸惑うだろうけど、嘘は言わないから。困った時は同郷のよしみで相談に乗るよ」 そう言いながらスマホを取り出す。似た者同士というのだろうか清藤と似ている気がした。 「愛国心、違うな、郷里心の強い男なんだよ三谷は。それに俺が一番信頼してる奴なんだ。たまたま連絡が入って合わせたいと思ってさ。近いうちに合わせようと思ってたから早まったけど。合理的だろ?」 確かに。清藤の中では合理的かもしれないが、真田はキャパをオーバーしそうなくらいパニックに陥っている。 そうだった…素のままの清藤だって清藤は清藤だった。迅速に合理的に。掛け声のように何度も聞いていたはずなのにと真田は肩を落とした。

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