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第27話
早食いで早足の清藤がいつかの信号待ちの時のように振り返って待っていると言ってくれる。
二人で一緒に居るために。その言葉は真田の気持ちをグッと清藤のそばに近付かせる威力を持っていた。
「今、凄く近付いた気がします。俺、結構慎重派なんで、のろまな亀ですけど」
「じゃ俺は兎か。いつかは同じ気持ちで居られるってことだな。いっそのこと背負って歩きたくなるな」
せっかちな清藤ならではの言葉と逞しい兎だと真田は笑った。気持ちを背負って歩くなんてそれじゃ意味がないと思いながらもその言葉は真田にとって堪らなく嬉しいものだった。
清藤が自分の為に何かをしようとしてくれることは嬉しい。清藤もちゃんと自分を見てくれていると実感できる。
「折角だからどこか行こうか。元希、行きたい所あるか?」
癖のない栗色の前髪を指先でサイドに流しながら清藤は見つめる。その仕草がなんとも色っぽくて見惚れ、誘われるように手を伸ばしその前髪に触れた。
先程、三谷が触れたことを思い出し上書きしないと気が済まない。こんなところで嫉妬心を燃やしても仕方がないのだが、触られたままでは納得がいかないと形の小さな懐だから仕方がないと思うことにした。
「なんだ…帰りたいのか?俺はいいぞ。DVDでも借りてゆっくりするか?」
久しぶりに料理でもするか!と勢いをつけてたち上がった清藤は、真田に伸ばした手を取れと揺さぶる。その手を借りて立ち上がった真田の頬は何故か赤く染めていた。誘った訳ではないのに、清藤はサラリと家に帰るという。
(この雰囲気で帰って何する気だよ…って何ってナニだろ…)
しようもない事を思いながら繋がれた手から感じる清藤と言動と自分の妄想に頬を赤らめた。
「もう、やめろよ…可愛すぎて抱きしめたくなるわ」
何故か清藤まで頬を染め繋いだ手を離した。
「可愛すぎって!…それはあんたでしょ…」
「いや、お前の方が可愛いよ。あ…参ったな…早く帰ろう」
扉を開けいつもよりゆっくり歩いてくれるのは、さっき話したからなんだろう。男同士だと手も繋ぐこともできないし友達のような距離感でしか歩けない。触れたくても触れられない、抱きしめたくても外では何もできないジレンマでも、隣を歩きたいとお互いが強く思っていれば置いてきぼりを食らうことはないのかもしれない。
清藤に歩くスピードを考慮してもらうしかないのだが。それでも真田はその背中を見て歩くもの案外好きだったりする。
角を曲がった時、清藤が振り返る。ちゃんと待っていてくれる。それが堪らなく嬉しくてそっと清藤の隣に立ち玄関へと向かった。
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