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第28話
終始笑顔でDVDを選び、隣で優しく笑っている清藤は会社見せる印象とはまるで逆だった。
冷静かつ完璧な仕事をしている。営業部の高居部長と比べている訳ではないが同じ時間を就業しているのに仕事量は雲泥の差さだと、別に高居が給料泥棒なんてことは思っていないのだが。
清藤の役に立ちたい。自分が出来ることはたかがしれているがその隣で肩を並べて仕事がしたい。
サポートとしてではなく同じ目線で仕事がしたい。こうやって隣で笑っていられる関係に公私共になりたいと思っている。
清藤の歳で課長という役職に就いている者は少ない。部長の推薦と役員会議での承認がなければなれないが、中々二十代で役職に就いているものは少ない。それだけの実績と取り纏める能力、率先力がないとなれない。その点では清藤は行動力そして機転の速さは優れている。平等に厳しいことも使われる側からすれば優しい上司なのかもしれない。
そう、この人は優しい。厳しいだけではなく厳しさの中に優しさが含まれている。だから言い返すこともなく課の者は従ってついていこうとする。
「何考えてるんだ?」
ソファに並んで座り画面を見つめているはずなのに、真田の意識がそこに向いていないことに気付いている。
「友海さんはすごい人だなって思ってたんですよ。企画部に移って良かったなって」
「ああ、産休と退職者が出たこともあったんだけど俺が言ったんだよ、元希と仕事がしたかったからな…って言ったらどうする?」
クスクスと笑いながらタチの悪い冗談を言う。そんな軽い理由では移動は出来ないことは知っている。それでもそう清藤が思ってくれたのなら嬉しいと掌をピタリと合わせ絡ませた繋いだ手を見つめた。
営業にいた頃から知っていたことは聞いた。だが、話したこともなければ業績を上げる程の仕事をこなしていたわけでもない。入社二年目だとそれなりだとは思っていた。
「お前は居なかったけど…営業部へ出向いた時にな、乱雑なデスクが並んでいる中に資料が一目で分かるように整頓されているデスクを見たんだ。綺麗好きとは違う効率の良い仕事をしている奴なんだろうなって思ってさ。なら営業よりうちの方が向いている。それに整理整頓できてる奴は頭の中も整頓されてるんだよ。その通りだった。元希は仕事を振ってもちゃんとしてる。うちは企画部って言っても営業の雑用だからな。アシストする奴がゴタゴタしてると上手くいくものもいかなくなる」
冗談ではなく推してくれたのは清藤の声もあったのかもしれない。自分に興味を持ってくれる何か小さな要素があったことに、厳しく躾けてくれた両親に感謝したくなった。
清藤との接点。アンテナを張り巡らせている清藤の目に止まったことが嬉しい。一緒に仕事をしたいと思ってくれたことが堪らなく嬉しかった。
「友海さんは俺を舞い上がらせる天才だよね。俺を見つけてくれてこうやって話すことができる、俺の恋人にまで…なんか夢みたいだ」
繋いだ手を離し、立ち上がった清藤は真田を跨ぐように腿に腰を下ろす。見上げる位置のその瞳を追えばその手は優しく頬を撫でた。
「舞い上がらせるつもりもないし夢なんかじゃないぞ。俺だって男の恋人ができるなんて思ってもみなかったけど、お前といると居心地良んだよ。性別の隔たりなんで関係ねーんだなって思ってさ。だからって他の奴とどうこうなんて考えられねーけど。こっちこそ俺を見つけてくれてありがとうな。せっかちだから戸惑うかもしれないけどさ、仲良くやってこーぜ」
頬を撫でていた手は後頭部を掴み、蕩けそうな笑みを分けてくれるのかと思うような甘いキスをする。
「あーキスってこんなに気持ちよかったっけ?」
清藤はそんな事を呟きながら、啄ばむようなキスは次第に深くなっていく。唾液が混ざり合い溶け合うようなキスと、抱きしめてくれる逞しい腕は心地良く蕩けてしまいそうで欲情を誘う。清藤はぞわぞわと粟立つ身体を任せるように真田に回した腕を強く絡めた。
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