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第35話
知って欲しいことと言われ核心に触れるまでの時間、心がざわざわしないやつはいないだろう。
まして好きな相手のことだ。それを半日考えていた真田は気もそぞろだった。
清藤の知られざる秘密を目の当たりにすることは嫌な予感を付纏わせている。
…まさか他に好きな奴でもいるとか、誰かと住んでいるなんてことは…ないと思いたい。
清藤を見ていると、案外束縛したいタイプじゃないかと思っている。繋がった時のあの言葉がこだまする。
『もう俺のモノだからな、浮気は許さないよ』
そう言って真田を束縛する言葉を呟いた。それを嬉しく思った真田も大概なのだが。そんな清藤が他にも付き合っている奴がいるなんてことはないと思いたい。
営業先での仕事が終わり、宗宮と駅へと向かう道すがらまたも宗宮の企画部配属への愚痴が始まる。
仕事が選べるのなら誰だって選びたい。それできないのがサラリーマンの辛いところでもある。
「清藤課長と一緒に仕事できてお前は幸せだよ〜」
宗宮は清藤に対する、いや、企画部に対する思いが強い。それは清藤を崇拝しているのか、個人の嗜好なのかはわからないのだが聞くわけにもいかない。清藤とこうなった今、真田の口からそう言ったことは口にはできなかった。
「あの人、浮いた話がないんだよな…もしかして男がいい人だったりしてな」
吸った息が詰まりそうになった。ずっと見てきた宗宮は色んな清藤を知っているのかもしれないが、真田とこうなる前は男が恋愛対象ではなかった清藤は男とは何もなかったはずだ。
本人もそう言っていたし、あの好奇心と行動力はある意味、女とはなかなか上手くいかないのかもしれない…そんな風にこじつけ自分を言い聞かせていた。
「まあそれはないわな。あの人モテるしさ、秘密の多い人だよな。それでも俺は清藤課長を崇拝してるんだよ。あの人の下で働きたい。下僕として扱われたい。あの鋭く射抜くような目で踏まれたい〜」
ゾクゾクするよ〜と自分の腕を体に巻きつけ抱きしめる宗宮は個人的嗜好から清藤を崇拝しているようだった。
行動には起こしそうもないが、要チェックリストに入れておいたほうがいいだろう。清藤が靡くとは思えないが何かあってからでは遅い。そう清藤はもう俺のモノなのだから。
昨夜の独占欲を剥き出しにした清藤を思い出す。そう、俺は清藤のモノであって清藤は俺のモノだ。
何の確認もとってはいないが、清藤の物言いから俺は清藤のモノだということは確かで、そうなれば清藤は俺のモノだという解釈をするのが普通だ。
なんともこそばゆい恋愛し始めのカップルのような束縛に頬が緩んでしまう。
そんな清藤がその姿の割に可愛らしい黒目の大きな瞳が揺らし、自分を求めてくれる姿を思い出しては頭の中はお花畑と化していた。
営業部での報告を終え企画部に戻れば、残っている社員は疎らになっていた。ノー残業デーと称されるものがあるのだが企画部には無縁だと聞いていたのに。
「お帰り。報告は終わったか?」
いつの間にか後ろに立っていた清藤が鎧を脱いだ顔を見せる。
「報告は終わりました。後はメールのチェックして帰ろうと思います…」
「そう、これ明日の午後会議に使う資料なんだけど午前中に仕上げてくれ」
デスクに置いた資料には黄色い付箋が貼ってある。
『外で待ってる』
そう書いてある付箋だけを外しポケットに突っ込んだ。
メールのチェックをし終え清藤の姿を探せば、もう部屋の中には姿はない。慌ててパソコンを閉じ、帰り支度をして企画部を後にした。
外の空気は夏の気配を含み蒸し暑さを醸し始めている。辺りを見渡し清藤の姿を探せば道路を隔てたコンビニの隅に追いやられた簡易灰皿の前でスマホを覗きながら紫煙を吐いていた。
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