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第38話

「……何を見ても、優しく受け止めてくれよな……」 繋いだ手に力を込めた清藤の意図するものがこの部屋にあるってことか。 まさか、誰かと住んでいて眠っているとか……そんなことは考えられないほど殺風景な部屋に誰かと住んでいるとは思えない。 それ以前に清藤をそんな人間だとは思ってはいない。 まさか……世の中には色んな趣味を持つ人間がいる。人を縛ったり鞭で打ったりとそれを好む嗜好の持ち主だっている。まさか、清藤がそんな嗜好の持ち主だとすればどう対処すればいいのだろう。 それでも清藤がそれを望むのであれば真田は理解しようと思っている。どんな性癖だって清藤を好きな気持ちは変わらない。 隣で大きく深呼吸を繰り返した清藤を見つめていた。 何度目かの呼吸を止め、意を決した清藤は取手に手を掛けた。 開かれたドアの向こうは暗闇に潜み、壁に手を添えた清藤がカチッと音を立て明かりを灯した。 そこに広がっていたのは…… 身体を縛るロープでも鞭でもなく六畳程の部屋はなんとも可愛らしいものが所狭しと飾られていた。 「……これって……」 ドアの右横はクローゼットになっている。扉が少し開き清藤のいつものスーツが覗いている。 そして窓際を陣取るセミダブルのベットは若草色の掛け布団が掛けられ、その周りには無数のぬいぐるみやファンシーな小物が埋め尽くされていた。言葉を失い立ち尽くした真田の手を引いて清藤は部屋へと入っていく。 「……俺さ…可愛い物が好きでさ……って元希…引いてる?」 ベッドの角に腰を下ろした清藤は繋ぎ直したの手を緩めず目の前に真田を立たせた。 「……ちょっとびっくりしてますけど……」 確かに可愛いかもしれない。いや、普通に可愛いと思う。だが清藤のシャープでスマートな日頃からは思いもよらない光景に言葉を失ってしまっているだけだ。 鞭やロープではかなった安堵を上回り、視界に映る清藤の背景を彩るファンシーな小物達はどうしても点と点で繋がらなかった。 「癒されるんだよ。可愛い物に囲まれて眠るのは至福の時間なんだ。睡眠時間短いから濃い睡眠のためのグッズだと思ってくれ……」 いつもの清藤とは思えない歯切れの悪いもの言いだが、頬を赤らめ上目遣いで見上げる黒目の大きな瞳は真田を見つめている。 「安眠グッズ……ですか……」 確かに清藤は睡眠時間は少ないだろう。それは分かっている。スマートなキレッキレな上司はこの部屋に戻り、疲れを癒す風呂に入り、ファンシーな小物に癒され眠りについている。 この現状を、清藤の趣味を垣間見た真田は繋いだ手を離し清藤の前に跪いた。

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