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第40話

翌朝、長い耳の抱き枕にしがみついた清藤を背中から抱きしめる形で目が覚めた。真田の腕の中の清藤に脚をまとわりつかせ清藤は抱き枕にまとわりついている。抱き枕、清藤、真田と同じ方向を向き眠っていたのだと笑いがこみ上げる。 一度家に帰ろうと早めにスマホの目覚ましをかけていた。そっと首元の腕枕を引き抜き、身体を起こそうとして強い力で引き戻される。 「…どこ行く気?」 掠れた声に清藤の顔を覗き込み、その額に唇を落とした。 「一度帰って出社しようかなって」 次第に開いていく瞳に光が戻り、寝ぼけ眼の可愛らしい清藤は無防備に真田の服を握りしめていた。 「帰らなくてもお前の着替えは用意してある。ここから一緒に出社しよ?」 強請る仕草があどけなく誘われるように身体を清藤の横へと戻した。 年上で上司でも擦り寄る恋人は可愛い。真田はなにも纏ってはいないただ自分の恋人である清藤を抱きしめる。 「俺、着替えなんて持ってきてませんよ?」 清藤の部屋に来たのは初めてだ。なのにここに着替えがあると言う清藤に疑いの眼差しを向ける。 「お前のスーツ…(あつら)えたんだ…」 頬から耳朶まで赤く染めた清藤は恥ずかしそうに胸元に顔を埋め呟く。 「誂えるって…オーダー?」 「祖父がテーラーをやってる。俺のスーツも祖父のお手製だ。元希のも一緒にオーダーして昨日届いたんだ…」 清藤の家族。個人的なことはあまり触れたことがない。敢えて触れないようにしていた部分もある。プライバシーはデリケートだと言うことは営業時代に嫌という程教わった。 「…友海さん…」 「サイズはお前のスーツで測ったからちゃんと合ってるよ。心配要らない」 サイズの心配をしているんじゃないと言いかけて止めた。顔を上げた清藤がそれは綺麗な顔で微笑んだからだ。 「生地は俺が選んだんだ。気に入ってもらえるといんだけど」 そう言って綺麗な笑みを浮かべなから昨晩の余韻を引きずる重い身体を起こし、クローゼットに足を向けるその跡を追う。 テーラーの文字の入ったカバーを外せば、そこに現れたのは濃紺のスーツが二着。 「お揃い…?」 「厳密には少し違うけど生地はよく似てるやつにしたんだ。お揃いってなんか良くないか?」 ペアルックとでも言いたげな清藤は嬉しそうにジャケットを真田の肩に羽織らせると嬉しそうに襟元を撫でた。 「似合ってるよ、元希」 真田がいつも着ているスーツは手頃ではないものの既製品だ。それでも初めてのボーナスで張り込んだ代物だった。 「こんな高価な物…払いますよ」 「いんだよ、これは俺がお前に着せたかったから誂えたんだ。俺が選んだ服を着てくれるって嬉しいからさ」 昨晩、真田の為にと出してくれたパジャマはグレーのスエット。隣で着替えた清藤とペアルックだったのだが。このパジャマでさえ清藤はご満悦だったことを思い出す。 それが清藤の自分に対する独占欲を満たすのならいくらだって独占されてやろうと、こんな自分を愛してくれる清藤を独占できる嬉しさでだらしなく頬を緩ませた。

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