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第41話
清藤の誂えてくれたスーツに袖を通し、清藤のマンションを出た。清藤が毎日のように通っているカフェに朝食を摂るため早めに出掛けたのだ。
やはり馴染みなのか清藤の顔を見た店員は「いつものですね」と声をかけカウンターに何かを告げる。席に座ると入口の側から手にしていた新聞を広げざっくりと目を通し始めた。
間もなく運ばれたトーストとゆで卵とコーヒー。そして具沢山の味噌汁が置かれた。
「なんで味噌汁って顔だな。やっぱり朝食と言ったら味噌汁だろ。無理言って作ってもらってる。上手いから食って」
味噌のいい香りに誘われ一口口に含んだ。それは手作りの味噌だとわかる。舌触りがどこか田舎の懐かしさを感じさせた。
「美味しい」
「だろ」
嬉しそうに真田の様子を見ながら清藤も箸を付けた。
あっという間に平らげた朝食に丁寧に「ごちそうさま」と手を合わせ店を出る。その一連は清藤のライフスタイルでこの場所に居れる事に堪らなく嬉しさがこみ上げる。
身体に纏った肌触りの良い生地は高級感を漂わせている。このスーツに見合う人間になりたいと隣を歩く清藤を横目で見る。よく似ているが細身の清藤が着ればまた違った感じに見える。この人の隣を対等に並んで歩けるだけの自信をつけたい。
そんなことを思いながら会社へと向かう。
赤信号で止まった清藤の手が甲に触れた。そんな気がして横を向けば嬉しそうに微笑む清藤と目があった。可愛く微笑むその顔を見るだけで胸がいっぱいになるそんな感情に頬が緩む。
「どうかした?」
そう聞けば左右に首を振る。そんな清藤の香水の香りが微かに鼻を掠めた。
「こういうのっていいなと思ってさ。元希と一緒に出勤とか俺の選んだスーツ着てるのとかさ」
恋人の存在をパーソナルスペースに入れるということだろうか。それは真田も感じていた事だ。そばにいるだけで満たされる感覚、自分の生活に愛する人の姿があれば幸せを感じるのは清藤も同じだと嬉しくなる。
「俺も嬉しいよ、友海さんがここにいてくれるだけで」
そう返せば蕩けそうな表情で首を傾げ肩を合わすように触れた。
「俺達は公私ともに一緒にいる時間が多いわけだけど、お互いを尊重し合って一緒にいような。だから元希も俺を最優先しなくていい。時と場合を使い分けて楽しくやっていこうな」
清藤の言いたいことはわかる。お互いの立場上その時の優先するべきものを最優先しろということなんだと。尊重し合う関係でいたいと。真田が困らないようにとの清藤の配慮。やはり清藤は先を歩いているのだと悔しくも心は温かいものに包まれていた。
「心の中はいつも友海さんが最優先だけどね」
「それでよろしく頼むよ」
いきなり上司の顔になった清藤は仕事モードに切り替わった。それは目の前の横断歩道の先には部長がこちらを見て手を降っていたからだと横断歩道を駆け出した清藤の背中を見て悟った。
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