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第42話
爽やかな笑顔見せる部長とうっとりと見惚れているように見える清藤。仲が良いとは思ってはいたが、こんな至近距離で入り込めない雰囲気を見せつけられ驚愕する。信号が変わる寸前でハッと意識を取り戻し真田は歩き始めた。
二人は仲良さそうに真田に背を見せて、時折見つめ合い笑みを絡ませ前を歩いている。
ついさっき尊重し合おうと話した。真田も納得はしたのだが、清藤の早急な変わりようは面白くない。上司がいれば恋人よりも優先するのは当たり前だ。天秤に乗せられる前の話だということもわかっている。
だが、清藤が部長を見つめるその視線にモヤモヤとしてしまう。自分のモノになったからだろうか。そんな嫉妬をぐっと胸に押さえ込み二人の後を追った。
「おはようございます。二宮部長」
わざと声を大きく挨拶したことは許して欲しい。吐き出せない想いをそこに込めてしまったのだ。
「おはよう、真田君。仲良く上司と出勤か?」
嫌味にも取れるその言葉に反応したのは清藤が先だった。
「昨日うちに泊まったので」
清藤が爆弾を投下した。それほど清藤の科白は吹き飛ばされそうな威力があった。恋人だとは思わないにしても上司の家に泊まるとことはどうなんだろうと嫉妬でいっぱいの頭を目一杯働かす。
「なんだ?清藤君、そんなに真田と仲良かったの?」
渋い低音ボイスが清藤に優しく問う。清藤もだが二宮部長も何故か清藤にはやけに優しく感じる。物言いや仕草から清藤に対する気持ちが現れているようにさえ思えてしまう。自分が清藤を好きだから清藤の周りがそんな風には見えているのかもしれないと思わなくもないが。
「仲良いですよ、お互いの家に泊まりに行くぐらい」
堂々と言ってのける清藤の表情を二宮部長はじっと見つめていた。そして見上げた清藤は嬉しそうに微笑んだ。
「それは詳しく聞かなきゃいけない案件だな。今夜は三人で食事だ。予定空けておいて」
返事をする暇も与えず、清藤の背中をポンと部長の手が触れた。そして社の玄関に止まった黒塗りの車をめがけ二宮部長は走り出した。
その姿を清藤と二人で見つめながら二宮が触れた背中に手を当てた。
不思議そうに見上げた清藤と目が合い、
「上書き」
と、言えば清藤はプッと吹き出し声を上げて笑い始めた。
「元希、お前、可愛いな。お願いだから仕事中は止めてくれよ。にやけて仕事にならなくなる」
笑い倒し涙を拭くフリをしながら、清藤は潤んだ瞳を見せる。何が可愛いのかと真田は馬鹿にされたようで頬を膨らませる。可愛さの微塵もない醜く幼稚な嫉妬を口に出せないだけだ。自分のモノに誰かが触れた嫌悪感丸出しなのだから。
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