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第44話

清藤は午前中、会議でフロアにはいなかった。 別に清藤の罵声が飛ぶわけではないが、フロアにいるというだけでその存在感は大きく真田は何度も清藤の席に目をやっては軽い溜息を吐いた。 「真田君って清藤課長と仲良くなっちゃんたんだね」 隣の是澤がペンを器用に回しながらどこかしんみりとした表情を見せ声をかけてきた。 仲良くなり過ぎるくらい仲良くなってしまった。上司と部下の関係だけでなく恋人同士になってしまったのだから。 「そうですかね……良くして頂いてます」 「羨ましいなぁ、今朝は一緒に出勤して……清藤課長のあんな笑顔みたことないよ」 それ見たことか。誰がどこで見ているかもわからないのに可愛い表情を振りまいていたからだと舌打ちを心の中で打つ。 「清藤課長は俺の何かがツボみたいですよ」 嘘は言っていない。清藤は真田のそばで気を許し無防備に笑ってくれることはある意味ツボにハマっている。恋という名の甘い大きな壺に浸かっている。 若干意味合いは違うにしても清藤の砕けたその姿に頬が緩みそうになるのを奥歯で噛み締める。 「そんな面白いところがあるわけ?真田君には。俺とも仲良くしてよ、清藤課長ともお近づきになりたいなぁ」 ここに配属になってから是澤が清藤に好意を持っているのはわかっているが、それが上司と親しくなりたい域なのかはイマイチ掴むことはできないでいる。 清藤に憧れのようなものを抱いているのか、恋愛対象として見ているのか。そうそう同性を好きになる奴がそこいら中にいるとは思えないが人の嗜好なんて深く付き合わなければわからないものだ。清藤だって、あんなにキレキレの仕事っぷりで容姿端麗であっても可愛いモノ好きな嗜好を持っている。 そのギャップが堪らないのだが。そう、そんな一面を知っているのは自分だけで恋人の特権なのだから自惚れたくもなる。 「俺の方こそよろしくお願いします。ここは殺伐とした人間関係のような気がするので……」 「それは当たってる。ここの奴は我関せずなとこがあるからな、社内でも異質だし。そうとなればどう今夜辺り、飲みに行かない?」 今朝の部長の口ぶりだと俺も清藤と同席するのかもしれない。何を聞かれるのか……それより清藤とのただならない雰囲気の根源を突き止めないといけない。 然るべき場合を想定すれば俺という存在を知らしめる絶好のチャンスだと清藤と同じく 甘い大きな壺に浸かっている真田は自分の立場も忘れ部長に挑もうと、是澤の誘いをやんわりと断った。

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