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第48話
とんでもないことを口走った二宮にフリーズした真田をそのままに、清藤は頬を染めたまま二宮に蕩けそうな笑みを浮かべていた。
「友のそんな顔は久しぶりだな」
久しぶりとは……清藤のふやけた顔を見たことがあるということだ。それが自分ではないことは明確で清藤の知りたいが知りたくない過去。それを知っている二宮の表情をただじっと見つめた。
「俺だけじゃない……元希もだから……そのことは言わないで下さい」
蕩けそうな顔で真田を気遣う言葉を零した清藤が絡めた小指を離し、しっかりと指を絡ませ掌を合わせた。
「ああ、友が幸せそうだからさ……無神経なことを言ってすまない」
「過去は過去。でも元希には俺から言いたいから誠治さんは何も言わないで。気分悪くさせたくないから」
もう充分過ぎるくらい気分は悪い……とは言えない真田はその繋がれた手をしっかりと握りしめた。過去は過去。
生きる年月が増えれば過去も増えていく。清藤は年上だし生きてきた環境が違うのだから当たり前のことだが知らない過去を知っている者に知らされる不愉快さは好きな人のことなら尚更倍増する。
それが上司であるがゆえ露わにできず堪えている真田の気持ちを清藤はわかっている。
「そうだな……ちょっと寂しいから妬いたんだよ」
そう言って顔を一瞬歪ませた二宮を見逃すことは出来なかった。
その表情の意味。弟のように可愛がる清藤の恋路を見てきた兄的寂しさなのだろうか。
それとも清藤と二宮の特別な過去から寂しさを感じたのか。そんなまさかと二人の関係を否定した真田の脳裏には二宮の歪めた表情がこびりついた。
「それで?付き合ってるのか?お前達」
身を乗り出しその場の雰囲気を変えた二宮は興味津々に身を乗り出した。
到底この状況下ではいそうですと返事が出来るほど真田の心臓には毛は生えていない。その返事は清藤に託し口を噤んだ。
「恋人だよ。もう、どうしてやろうかってくらい可愛い恋人だよ元希は」
どうにでもしてくださいと言いたいがここでは決して口に出来ない真田は、俯きただ赤くなるしかなかった。
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