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第49話
「なんだよ、お前ら……可愛いなぁ」
二ノ宮のその科白に真田はただ赤面を隠すように俯くが清藤はそれはそれは嬉しそうに蕩けそうな笑顔を二宮に見せる。
その笑顔を二宮は複雑な表情で見つめていた。
「まあ……友が幸せならいいけどな」
その場の空気を変えようとした二宮は再びグラスの酒を煽り、言葉とは裏腹な表情を見せる。真田は二宮の複雑な表情は何を含んでいるのか読み取ろうとした。
だが、分かるわけがない。今目の前の二宮が何を思っているのかなど二人の間の長い年月を知る者、そう当事者にしか分かるわけがないのだから。
隣の横顔をチラリと見れば清藤は口角を上げ溢れんばかりの笑顔を二宮に向けていた。
グラスの氷がカランと音を立てた。ゆらゆらとグラスを揺り薄まった酒を一気に飲み干した。
それからの二人はいつの間にか仕事の話から出会ったきっかけの話になり清藤の祖父「テーラー清藤」店主の話になっていた。
二宮は長く清藤の祖父の店の客だということが話の内容から読み取れる。
まるで情報収集のように頭にインプットしている真田はどうにかしてこの二人を知ろうといつのまにか躍起なっていた。至ってそんな風は見せていないのだが。
知ったとしても割り込めない二人の関係にもどかしさを感じながら酒はほどほどにつまみを口に運んだ。
そう隣の清藤のペースは早い。頬を赤らめているのは向かいに座る二宮のせいではない。
楽しい酒ならいい。自分がその会話に入ることができなくても、自分が介抱すればと飲むペースを緩めた。
他愛もない話の後一瞬空気が止まった気がした。二人の視線を感じて皿から視線を移す。
のそのそとトイレに立ち上がった二宮を見送ると清藤はコテンと真田の肩に頭を乗せた。
「俺と部長の話、聞いてくれてた?」
聞いてくれてた……という言い回しに肩先の清藤を見つめると見上げたその瞳と視線は絡まった。
「俺、結構自分のこと話したんだけど……」
確かに幼い清藤を垣間見れる場面はあったと思う。だが箇条書きのように頭にインプットした内容にはその情景など浮かんでは来なかった。
「二宮部長を使って結構自分のことを話したつもりなんだけど……面と向かって俺はこんな風に過去を過ごしてたなんて言えないし……あの人は……俺の昔を知ってるから……」
二宮部長に話を振り、過去の自分を話させたとでもいう意味合いに聞こえる。
昔話に花を咲かせていたのは真田に昔の自分を伝える為だったのか?
頭の中で箇条書きに並べた清藤の過去を思い出していた。色のない昔の清藤は想像するに乏しいが、肩に乗せた頭に手を回し優しく髪を撫でた。
「あんたの過去を知ってるってだけでかなりムカついたけどね」
「聞きたいことがあれば聞けばいい。隠したりしないから。ただ二宮部長との出会いは今日の話で大体わかっただろ?元希がモヤモヤしてたことも……」
二宮との関係にモヤついていたとは一度も口にはしていない。態度から読み取ったのか。それでも真田の心情に気づきこうやって二宮との関係をオープンにしてくれている。
二宮とどうやって会話をしどんな風な関係なのか。それはこの僅かな時間でも垣間見ることはできた。
それは清藤の気遣いと自分への深い愛をヒシヒシと感じその細い肩を抱きしめた。
何もかもお見通しってわけか……それにしてもこの人は……
それでも包み隠さずこうやって事実を教えてくれる清藤の想いに胸が軋み締め付ける。
二宮との関係にモヤモヤしながら聞いていた会話も自分に教えるためだとわかれば、今では知りたいが知りたくなかった清藤の過去を素直に聞き入れることができる。
「あんまり可愛いことしないでよ……んっとに、帰ってから詳しく聞くから」
清藤はその細い身体を真田に預けクスっと笑った。
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