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第51話
それでもモヤモヤが消えたわけじゃない。
清藤が話してくれるまで待とうと思ってはいるが、それまでの間このモヤモヤは燻ったままなんだろうかと思えば溜息が漏れる。
険しい顔をしていたことも嫉妬していたこともわかっているのならその原因を今すぐにでも話して欲しい。
酔っ払いの清藤の瞳は半分閉じようとしている。その様子から今日は聞けそうにないと思いながらも、さっきの光景がちらつき清藤の首元に腕を差し込みその身体を抱きしめる。あたかもこれは自分のものだとでもいうように包み込んだ。
胸元に収まった清藤は瞳を閉じたままゆっくりと口を開いた。
「誠治さんに憧れてたんだ……ずっと」
くぐもった声に胸元の清藤を覗き見るがつむじが邪魔をしてその表情は見ることができない。
「好き……だったの?」
「恋愛感情だったのかって聞いてる?」
「そうじゃないといいと思ってます」
「全てに憧れてた。憧れの大人の男だったんだよね。雰囲気も性格もセンスも。どれをとっても素敵でさ、こんな大人の男になりたいって学生の頃はずっと思ってた。そんな誠治さんが祖父の作ったスーツを着こなしてくれることが堪らなく嬉しくて誇らしかったんだよ。じいさんが引き合わせてくれたような縁だからな」
誰かに憧れる……なんてことは今まで一度もないが、清藤の言っていることは何となくわかる気がした。自分の周りにはいない大人に憧れることは安易に想像ができる。
「これが恋愛の好きかって聞かれたら違うだろうな……あの人はそうでもなかったみたいだけど」
最後の言葉に首を傾げた。
……あの人はそうでもなかった……それは二宮課長自身、清藤に好意を持っていたということか?
「あの風貌だからモテるからな……俺が憧れてることは気がついてたし、可愛がってくれてたし……でもそれが恋愛か?って言われたら違うと思う」
「……二宮課長は友海さんのこと好きだったってことですか?」
「まあ、俺だけじゃなかったみたいだけど。あの人は気が多くて……いや、今となっては本気で愛した人がいなかっただけってことかな……心配しなくても元希が心配してる関係じゃないから。でもさ、誠治さんは憧れの人なのは今でも変わらない。一足先に歳を取っていく誠治さんにはいつまでも憧れてしまうんだよ」
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