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第52話
ずっと憧れてきた……二宮に憧れ、あんな大人になりたいと思い続けてきたならそう簡単にはやめることはできないのはわかる。それに清藤の様子からも憧れ続けていくんだろうと伝わってくる。
真田が思うことはいたってシンプルなことだ。自分の好きな相手が誰かに惹かれることが面白くないだけだ。
それを懇願してまでやめてくれとは言えるわけはないし、そんな幼稚なことを口にしたくはないとプライドがものを言う。
自分と出会うずっと前からの関係を羨ましく嫉妬しているだけだ。清藤は見つめるその先の二宮が愛おしそうに見つめ返すその光景が脳裏に焼き付いている。
それが恋愛感情でなくても面白くないのは仕方がない。モヤモヤと燻るこの感情は清藤を好きだからこそ湧き上がるのだから。そんなジレンマと戦っている。
「誰かに憧れる経験がないから……ちょっとその感覚はわからないけど……友海さんがちゃんと俺を好きでいてくれるなら……」
「俺は元希が好きだよ。それに誠治さんに抱かれたいとは思わないし。心配しなくていい。嫉妬してくれるのは嬉しいけどね」
物騒なことを言ってのける清藤の瞳には曇りはない。長い人生の中で無数の人と関わって生きていく。それを一々妬いていたら身がもたない。
そう自分の気持ちに折り合いをつけないといけないのだ。清藤の尊敬する二宮は人として憧れるだけであって恋愛感情は含まれてはいない。
あまり幼稚な嫉妬ばかりしていたら呆れられてしまうかもしれない。清藤を信じていないわけじゃない。職場でも私生活でも一緒にいる時間が長いが、出来るだけ一緒にいようと言ってくれる清藤の想いは充分伝わっているし好かれているんだと実感させてくれる。
「嫉妬は愛しているからこそなんだけど、友海さんを信用してないわけじゃないので……勘違いはしないでください」
「わかってる。男同士で勝手も違えば感覚も女性相手とは違うからな。でもさ、人を好きになるって不安と隣合わせだよな。いつかもしも……を想像するだけで怖くなる。いつか元希がやっぱり女性の方がいい。なんて言わないかって不安だよ。だけどそんな先の不安より、俺は今こうやって一緒にいられることを大事にしたい。今の元希とのこの時間を大切にしたいんだよ」
同じ時間を共に過ごす今を大切にしたい。少し声を荒げ、絡まる視線の先の清藤の瞳には薄っすらと涙が浮かんでいた。
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