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第55話

とりあえず簡単に荷物を片付けて身支度を整えると、清藤は真田の誂えてもらったスーツを大事そうに抱えていた。 玄関先には清藤の革靴が二足並んでいる。先程持ってきたものだろう。よく見かける革靴を自分の革靴と並べてもう片方をシューズボックスに仕舞った。 その一連の様子を嬉しそうに見ながら顔を綻ばせている清藤と目があった。 「やっぱり俺、愛されてんなぁ」 どこをどう見てそう呟いたのかそれでも可愛い笑顔でそう言われればその意味を知りたくなる。首を傾げながらも昨日の清藤から連想すれば実感を噛み締めているのかもしれないと思った。 「そりゃそうでしょうとも。俺が先にあんたに惚れたんだから」 「そうだな……俺はお前に愛されて……もっともっと愛されたくて付き合いたいって思ったんだ。俺もお前と同じくらい愛したいって思ってる。後先は関係ないよ」 これからの今を大事にしたいならきっかけは俺でもこれからはお互い同じ温度で今を大切にしていくことができる。 部屋を出て隣を歩く清藤は何も纏っていない素の清藤で、真田にしか見せないその雰囲気にまた満たされた気持ちになる。 この人が飾らず鎧を脱いで安らげる居場所でありたいと真田は心に誓った。 「さて、元希。今から爺さんの店に行くんだけど……腹を括ってくれよ。俺の恋人だって話してあるからさ」 大通りに出た清藤は、いつもの早足でタクシーを止めるため身を乗り出していた。 そう言えばそうだ。どういった経緯でスーツを誂えたのか。そりゃ聞かれたに違いない。男の孫がスーツを贈る相手、スーツを贈るのだから男に決まってる。それを聞いた清藤の祖父はどう思っただろう。 背中に冷水が伝っていくような感覚に身震いをした。 そうだった。どういう挨拶をするつもりでいたのか。初対面で会う孫の恋人が男だなんて清藤の祖父は憤慨しているかもしれない。 当の真田はスーツの礼を言うことしか頭になかったのだ。 タクシーを止めた清藤は柔らかい声で真田を呼んだ。会社で見る清藤ではなく優しく振り返るその姿は紛れもなく自分に恋をしてくれている愛おしい人のベール纏っている。愛されオーラとでも言おうか。 いくらでも腹なんて括るさ。清藤の為ならなんでもする。 決意のオーラを纏い真田は清藤の元へと駆け寄った。

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