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第57話
自分がどれだけ緊張しているのかちゃんと清藤には伝わっていてそれを和らげてくれている。
言い出しっぺは真田でも清藤は真田の緊張を少しでも解そうとしていることは充分伝わってくる。
「いいなぁ、ここで元希と手を繋いで歩けるとは思ってなかったよ。俺の記憶の上書きだな」
そう言って隣に並んだ清藤は嬉しそうに笑う。
記憶の上書きをしなければいけない何かがここにあったんだろうか。聞かないと決めた過去をチラチラと見せられる度、気になって仕方がない。
だが、清藤は嬉しそうな様子だし、これが良い上書きになるのならいいじゃないかと真田は自分を言い聞かしていた。
「はははっ、驚いたなぁ、友が手を繋いで帰ってくるとは」
目的地の扉が開いて、ロマンスグレーの老紳士がこちらを見て笑っている。
「爺さんだよ。俺が家族の中で一番信頼してる人だ」
軽く手を挙げた清藤は少し急ぎ足になった。その時、元々早足の清藤がゆっくり歩いていたことに気付く。
真田の緊張を和らげる時間を作ってくれていた。緊張が羞恥に意識が移り、今では先程までの緊張感はない。
この人の愛情が溢れていると真田は満ち足りた気持ちになる。
「友海さん、今抱きしめたいです」
堪らなくなった真田は往来の羞恥さえ何処かへ行ってしまい、ただ自分が愛されていることに隣の愛おしい人を抱きしめたくなったのだ。
「な、なんだよ、急に」
「俺、愛されてますね……俺、嬉しくて……」
いつも冷静な真田の態度に清藤は目を見開いだが、その意味を悟り繋いだ手の甲を指先でなぞりながら甘く笑みを漏らした。
「いいねぇ、お互いがちゃんと向き合ってる……俺も幸せ実感してる。帰ったらいっぱいさせてやるからちょっと我慢な」
耳元で囁き、耳朶に唇が触れた。少し下の目線は扇情的に真田を煽った。
「早く帰りましょうね」
緊張の糸が完全に切れてしまった真田はもうこの先を楽しみにしている。清藤は少し胸を撫で下ろし、隣の可愛くて仕方がない恋人に何をしてやろうかとワクワクと心を躍らせながら、待ち構える唯一の家族の元へと足を早めた。
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