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第58話

出迎えてくれた清藤の祖父は清藤には遺伝子は受け継がれなかったのだと思うほど容姿が違って見えた。 がっしり背の高い体格はこの歳の頃にしてはガタイがいいと思う。深い二重の瞳はどう見ても清藤とは違ったものだった。 きっと清藤は母方の遺伝子を継いでいるんだろうと、頭の先からつま先まで余すことなく清藤の祖父の視線を痛いほど浴び、うんうんと頷いたその笑みに真田は深く頭を下げた。 「友海さんとお付き合いさせて頂いています真田元希と言います。よろしくお願いします」 「清藤です。わざわざご足労ありがとう」 招き入れられた店内は布の独特の香りに包まれている。凝ったハンガーに上質の生地で仕立てられたスーツが所狭しと飾られていた。 店の奥に案内され重厚な扉の向こうは、8畳ほどの部屋が広がり、またこだわりのありそうなソファと反対側には対面式のカウンターが有り、ここだけ見れば小さなカフェのようにも見える。そして窓の外は庭が広がり朝日がキラキラと差し込んでいた。 「爺さんの道楽なんだよ。表は仕立て屋で裏から入るとバーになってる。昼間はカフェにもなるしね」 「道楽って……ここのデザインは友がしたんだし、改装も全部、友の手作りなんだよ」 カウンター奥から顔を覗かせた清藤の祖父はいい音を鳴らしながら珈琲の豆を挽き始めた。 「この奥が住まいになってて俺はここで育ったんだ。だから俺の実家なんだよ」 両親との関係に少し疑問を持ってはいたが、まさかここが実家だとは真田は思っていなかった。何らかの事情があることはこれでほぼ明確になった。ただ、それがどうであれ清藤との関係が変わるわけではない。 真田は静かに清藤を見つめ言葉を待った。 「元希は何も聞かないよね。俺はそれにいつも助けられてる。全て話してもいいと思っていても言葉は難しいからな。誰でも先入観があるし……」 「俺は友海さんの口から出た言葉だけを信じようと思ってます。言いたければ話てくれたらいいし、今じゃないって思ったら言わないでいい。聞いたからって何も変わらないしね」 過去を変えることは出来ないし、清藤の気持ち次第だと思っている。それにこれからの俺達の関係が変わるとも思えない。思うことは色々あるが思っているだけでいればいいこと。清藤はすぐ側にいる。清藤が側にいれば全てのことは解決しているように真田は思えていた。 「そうだな。何も変わらないよな」

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