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第59話

ガラス越しの庭を見たままの清藤が何を考えているのかはわからないが、自分達がちゃんとわかり合えていれば気持ちは彷徨ったりしない。 学生時代の元カノもこうやって気持ちの確認とお互いの想いが分かっていたら浮気されることも別れることさえなかったのかもしれない。 彼女だけが悪いわけではない。それは許せない想いの中でも分かっている。ただ今更何も生まれてはこない過去の存在だが。 真田は清藤とのこの関係を大切にしていきたいと思っている。これからどんなことが起こってもこの気持ちだけは揺るがない。 「何考えてる?」 いつの間にか外を見ていた清藤の視線は自分に向いていることに気づき、柔らかく微笑んでみせた。 「何でも話していきましょうね。言葉足らずは不安になるんで」 弱い部分を見せるのはプライドが邪魔をして男なのだからと見栄を張っている自分がいた。 だがそんなことを言っている場合ではない。二宮といい、清藤もだが自分より歳上を相手に見栄など必要なく、そんなものは通用しないガキの戯れにしか見えないだろう。このテーラー清藤でさえ自分は場違いで座りの悪い感覚に何となく居心地は悪い。 目の前に置かれた珈琲は良い香りが漂いふっと息を吐かせてくれた。 トレイをカウンターに置き、椅子を反転させた清藤の祖父は腰を下ろし俺達を見つめた。 「友のそんな安心した顔は初めてみるなぁ。真田君がさせてくれているのかな」 低音の効いた優しい声は清藤を愛おしいと伝えてくる。可愛い孫だ。愛おしいに決まっているがそれも特別可愛いのだろうとひしひしと伝わる。 「そうだね。俺の安定剤かな、元希は。何も考えずただ好きでいられるんだよ」 「そうか……真田君、ゆっくりしてからでいいからスーツを着て見てくれないか。私の予測と手足の長さがなぁ、合わせて見せたいんだが」 清藤が大切に持ってきたスーツを手渡すと表の店へと清藤の祖父は消えていった。その後ろ姿は凛として年齢を感じさせない。 「かっこいいだろ、うちの爺さん」 嬉しそうにその姿を目で追い、この人も大好きなんだと伝わってくる。 「ほんと、かっこいい。素敵ですね」 真田の返事にまた頬を緩める。そんな清藤はまた庭に視線を移し、落ち着きなく両手でカップを持ち一口口に含んだ後、大きく息を吐いて話し始めた。

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