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第62話
「俺はその人にあったことがないから憶測でこんなこと言うのはどうかと思うけど……その彼女が友海さんと遊びで付き合ってたとは思えないんだよね。遊びの相手に会うために頻繁に帰っては来ないだろうし、あんたに惹かれて付き合ったのも事実なんだと思う。ただ、本能で惹かれたのは……一緒に亡くなった人かもしれないけど……」
そう清藤に話ながらいつのまにか真田は元カノのことを思い出していた。
元カノが自分との関係に悩み相談した相手がたまたま真田の友人だったこと。心の底にある想いを吐き出し素のままを曝け出した彼女に惹かれたのは友人の方だったのかもしれない。
二人の間で揺れ悩み、苦しんだ彼女は友人を選んだのだとしたら……今となっては聞くことはないだろう憶測なのだが。
「自分を見て欲しいって願うことは間違ってない。好きな人になら尚更のことだよ。誰にアピールするのかってことだから。友海さんが彼女を好きで、もっともっとって欲張るのは当たり前のことだと思うよ」
「……ごめん……こんなこと元希に話す事じゃないのに……ここに来ると思い出すんだよ。ドアを開けて彼女が「ただいま」って……」
思い出が詰まった場所に行けば誰だって思うことだろう。過去の情景がフラッシュバックする。それが不意打ちで途切れた関係なら尚更だと真田は握り締めた清藤の手に力を込めた。
「思い出の場所は辛いかもしれないけど、形を少し変えることは出来るんじゃないかな」
真田はある事を思い付いた。そんなことが今更清藤の記憶を塗り替えることは出来ないと思ってはいるが、ここで少しでもと思うのは、やはり自分が清藤を愛おしく思っているからで、今の恋人は自分なんだと知らしめたいのも事実なのだ。
「ちょっと出かけてきてもいい?すぐ戻ってくるから」
そう言って、真田は立ち上がると、不安そうに見上げる清藤に触れるだけのキスを落とした。
「そんな……心配しなくても大丈夫だから。ちょっと忘れ物しただけだから」
そっと肩に触れた真田は清藤に振り返ることなく後ろ髪を少々引かれながら、外へと向かった。
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