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第63話

店を出た真田は清藤の祖父の店に着く前に見えた商店街へと駆け足で向かう。 清藤の記憶の上書きをするために思考を張り巡らせ、長く続くアーケードの左右に連なる店を見ながらインパクトのある少しでも掻消せるものを探していた。 何も思わず手ぶらで清藤の祖父の店に出向いてしまったことに叱咤しながら、まずは何か手土産になりそうなものを探す。 目に入る和菓子屋の暖簾。ケーキや洋菓子よりも良いのではないかとと閃き、「岩美屋」と書かれた暖簾をくぐった。 ガラスケースの中で可愛らしく並ぶ和菓子を祖父の好みも知らないまま箱に詰めてもらう。残してきた清藤が気になる。早く帰りたいと気持ちは焦り手渡された袋を手に和菓子屋を後にする。 そのままアーケードを早足で花屋を探した。 インパクトがあると言えば……真田の脳裏には花束しか浮かんでこなかった。花なんて送ったことは今まで一度もない。 だが、清藤に似合いそうな花束が欲しい。昔見た洋画を思い出し、ドアを開ければ花束を抱えた俳優が立っているシーンが脳裏に焼き付いていてインパクトを狙うならこれしかないと思った。歩きながらジーンズのポケットからスマホを取り出し検索を始める。 そして店の前に張り出した緑の観葉植物が目に入る。色とりどりの花が店の前に並べられているのを見ながら店内をぐるりと見渡した。 「すみません。薔薇、ありますか?」 束ねてもらった花束を抱え、来た道を急いで戻っていく。一分でも早く清藤の元に帰りたい。陸上で鍛えた脚力で丁寧に抱えた花束を気にしながら真田は急いだ。 店の前で深呼吸を繰り返し、ドアの取っ手に手を掛けた。そして手入れの行き届いたレトロなドアを引く。 トルソーにスーツを掛け手直しをしてくれている清藤の祖父と目が合い、真田の姿に驚いた表情が次第に甘く目尻を下げる。 「なんとも、いい男が花束を抱えると絵になる」 そう言って清藤のいるドアに視線を向けた。 「君がいてくれると安心だな。友海を頼むよ」 遅くなった手土産見上げを渡すと少し掠れた声で微笑んで見せる祖父のその言葉の意味を、深く噛み締めた。 「俺にできることならなんだってしてあげたい。そう思ってます」 何度も頷く清藤の祖父に相槌のように真田は頷き、清藤の待つドアをノックした。 そっと開いたドアの向こうに清藤が立っている。さっきまでの重い空気が流れ出し、新鮮な空気を送り込むような出で立ちの真田に清藤は驚きの声を上げた。 「え?……どうしたんだ?」 誰だって驚くだろう。ドアを開ければ手に余る黄色い薔薇の花束を抱えた恋人が立っている。 昔見た洋画を思い起こしながら真田は清藤へと差し出した。驚きながらも花束を受け取った清藤は目を見開いたまま、花束と真田を行き来する。 「なんで……?」 言葉にならない様子の清藤を花束ごと抱きしめてドアを閉めた。

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