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第64話
「なんかリチャードギアみたいだね」
同じことを思ったのか嬉しそうに薔薇の花束を抱え、薔薇に劣らない満面の笑顔を見せる。
「黄色い薔薇ってこんな束になると迫力ある。元気がでるよ、ありがとう」
腰掛けた清藤は匂いを吸い込んで側に立つ真田を見上げた。
「この先もずっと一緒にいたい。俺には友海さんが必要で、あんたにも必要だって思われたい。そう思ってもらえる自分になりたい。仕事でも、下っ端のペーペーだけどあんたに追いつきたいって思ってるから」
忘れられない過去に愛した人を想い苦しむ恋人を、これから先は自分が大切にしたいとこの薔薇の花束に想いを込めた。
裏切られて深く人を好きになれなかった自分が、憧れて惹かれ想いが通じた人だ。答えを求めても返事のない過去の人を想い苦しんでいるなら、これからの未来は自分がいるのだと伝えたかった。
「うん、俺も元希が必要だよ。答えの出ないこの気持ちは燻っるだけで、ここに来ると思い出してしまう。感傷的になってしまって、ごめん。次にここに来る時はきっと元希の花束を抱えた姿を思い出すんだろうな」
記憶をすり替えることはできないことは充分わかっている。いつまでも消えることのない過去の情景に上書きしたいと思っただけだ。記憶を上塗りすればここに来た思い出にはきっと自分の記憶も含まれていくだろうと。そしてそれを少しずつ自分で塗り替えていきたい。
清藤の悲しみがいつか癒えていけばいいと、それは自分のそばでと、そう願っている。
パステルカラーの黄色い薔薇は可愛いものが好きな清藤ならきっと喜ぶだろうと思った。それに、黄色い薔薇の花言葉には愛している、敬愛していると言う意味もあるが、ジェラシーという意味を持っている。
確かに清藤の愛した人に嫉妬はしている。正直、もう叶うことはない想いを燻らせているのも面白くない。
だが今はその先を望める相手ではないことに踏ん切りをつけることができないなら、自分がそばにいて少しでも消化できるならと願いを込めた。
「どんな時だって側にいる。言いたくないことは言わなくてもいい。でもさ、どんな時でも友海さんには俺がいると思って欲しい」
もうこの世にいない彼女は清藤の前には現れないとしても、抱きしめるのは自分しかいないと、見つめてくれるその瞳に映るのは自分だけだと強く抱きしめた。真田の心に影を作る得体の知れない黒いものに清藤は俺のものだと訴えていた。
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