65 / 157

第65話

「元希は俺のこと、愛してくれてるんだな。嬉しいよ。こんなこと……お前にいうことじゃないってわかってる。でも知っててもらいたかった」 曝け出す勇気は心を許してくれているということ。でも面白くない気持ちは心の隅にある。全てが自分のものにならない、清藤を独占できないからだ。どうあがいたって死んだ人間に勝てるわけではないが、それでもその心の中全部が自分に向いて欲しいと願ってしまう。 「分かってます。俺だって友海さんのことは全部知りたいと思ってる。こんなに欲しいと思った人はあんたが初めてだから」 「前の彼女にはそんな風に思わなかった?」 「思わなかったよ。俺が本気じゃなかったからかもしれないけど」 「本気じゃなかった?」 「俺……大学の頃に付き合ってた彼女に裏切られてから本気で付き合った人はいないんです。でも、あんたは違う。俺が欲しいって心から思った人だ」 少し感情的になってしまい、呼吸を整える。ここで今、元カノの話はしたくない。話がすり替わるのは避けたかった。 「だから、あの時、あんな冷たい態度だったんだ……俺が持ってたイメージとえらく違うなって思ったんだ」 「……あの時って?」 「ああ……俺達が付き合う少し前のことだけど、駅前でお前が女と別れ話してたのを偶然聞いたんだ。冷たい目に俺もゾクッとした。だから、この話したら俺もそんな視線向けられるのかってちょっと思ったりして……」 (前の彼女との別れ話を清藤に聞かれてた? もう終わりだと切った瞬間を見られていたってことか?) 暫しの沈黙に触れていた清藤の手に力が篭り意識を戻す。 「あんたに見られてたなんて……彼女はお互い支え合える人ではなかったんで、そもそも本気じゃなかったっていうか……」 しどろもどろになる真田の脳裏には何処から見られていたのかとあの時の情景が巡る。 「その彼女には悪いけど、元希とは縁がなかったってことで……今は本気で俺を好きでいてくれるんだろ?」 「当たり前です!こんなに必死であんたの記憶塗りかえようと必死なんだから、あっ」 心の中で思っていたことを口走ってしまう。じっと視線を絡ませたまま真田の背中に冷たいものが走った。 「はは、ありがとな。ちゃんと伝わってる。俺には今、お前がいる……お前しかいないからな」 しゃがみ込んだ真田に手を伸ばし愛おしそうに抱き締める温かい手。 相手の出方ばかり気にしていた真田より清藤は大人で自分に真正面から向かってくれていることに胸を撫で下ろした。 (やっぱり大人だよな……) そんな真田の心中が手に取るようにわかるのかさっきまでの空気を変え清藤はクスクスと笑った。

ともだちにシェアしよう!