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第66話

花束を抱え帰っていく清藤を見送って、真田は自分のマンションへと戻ってきた。 明日は休みだが月曜の朝、一緒に出社したいと言う清藤の願いに、着替えを取りに帰ってきた。その間に清藤は手料理を振舞ってくれると言うので心踊る真田の足取りは軽かった。 もういっそのこと一緒に住んだ方が何かといいのかもしれないが、それを言い出す勇気はまだなかった。 そばにいたいとは思ってはみても同じ職場の上司なのだから一人の時間も必要ではないかと思うところもある。 先の事を一人で考えても埒があかない。この先のことは二人で考えていけばいい。 心満ちた幸せオーラを放ったままマンションのエレベーターに差し掛かった時、壁にもたれ掛かる人影がごそりと動いた。 「真田?」 その人影は自分の名前を呼び、その姿を見せる。 「冬吾……」 大学時代、仲の良かった友人、もう会うことはないと思っている奴だ。 卒業して二年。だが社会人になってから大きく変わった生活からすればもう二年も経ったんだとその姿を見て思い返す。 「何か用?急ぐんだけど」 素っ気ない態度は仕方ない。元希の彼女を寝取った張本人だ。いくら友人でも彼女をシェアなんてしたくもないと今更ながらに怒りが湧く。 元カノと別れ以来、この奪った張本人河野冬吾には会っていない。何度か連絡してきてはいたが今更何を話しても同じ事だと無視をした。彼女が冬吾に抱かれたと言うよりも、冬吾が彼女を抱いたと言うことに当時は腹の虫が収まらなかった。同じ男としてしてはいけないことだと簡単に裏切られるちっぽけな友情だったのだと冬吾を恨んだ。 「今日じゃなくてもいい、時間を作ってくれないか?」 昔より痩せた身体に覇気のない表情。大学時代はアクティブだった奴だとは思えない変わりようだ。 「なんの時間? もう話すことなんてないし、 今更友達だからなんていわないよな?」 エレベーターの前に立ちボタンを押した。扉が開くまでの時間だけしか話せないとでも言うように。 「彼女とは一年前に別れた。それっきり会ってない」 「それが俺になんの関係がある? 今、俺には今付き合ってる人がいる。もう彼女もお前も俺にとっては過去の存在だから」 扉が開き乗り込んだ真田は河野を真正面から睨みつけた。 「話したいことがあるんだ。お願いだから時間を作ってくれないか?連絡先変わってない?メールするから」 扉が閉まる寸前まで懇願している冬吾を無表情に見ていた。 部屋に入り胸糞の悪い苛立ちを持て余しながら清藤の待つマンションに行くための準備を手早く済ませ、部屋を出る。 玄関でまた出くわさないかと先ほどの光景を思い出し苛立ちが増す。 (今更なにを話すことがあるんだ……もう一生、顔を見ることはないって思ってたのに……) 早く清藤の顔が見たい。さっき別れたばかりなのに清藤を抱きしめて、喉の奥で詰まったものを吐いてしまいたかった。

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