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第67話
エレベーターの前に立ち息を整えながら早く来い!と上へ向かう矢印を連打し、扉が開くのを待てず両手で開くように箱の中に押し入り、清藤の待つ階を連打する。
冬吾に会ったことで彼女に打ち明けられた時の衝撃が蘇ってくる。
恋人に裏切られ友人に寝取られたあの真っ暗な奈落の底に落とされた衝撃が蘇る。
インターフォンを押すと数秒でかちゃりと鍵が開いた。ドアノブを持たずドアを勢いよくこじ開けると取っ手を持っていた清藤がバランスを崩し、真田の腕の中にダイブした。
「うわぁっ、危ないなぁ」
その言葉は真田の腕の中で安堵した清藤が笑い声に変えていく。
「どうしたんだ?そんなに会いたかったとか?」
クスクスと腕の中で笑う清藤を真田は強く抱きしめ、首元に顔を埋めてその匂いを思いっきり吸い込んだ。
今、自分が愛しているのはこの人であって過去に恨み憎んだ奴に感情を振り回されたくはなかった。
その様子を嫌が応にも真田の変化を感じ取った清藤は真田の体を引き離しその表情を直視する。
「なんかあったのか?」
そう聞かれて真田はその真っ直ぐ見つめる清藤から視線を外すことなく想いを告げる。
「俺は友海さんが好きです」
「俺も好きだよ、すげー好き」
タメ口の清藤にほっと肩の力が抜ける。意味不明な行動を不思議に思わないわけがないと真田は正直に話した。
「大学時代の友人に会いました……俺の彼女を寝取った……」
がしりと手首を掴んだ清藤は真田をリビングへと連れて行きソファに座らせた。
「偶然?」
「いえ、待ち伏せされてて……話があるって言われて……」
「ぶっちぎってきたと?」
「話すことなんて何もないですし、もう二年も前のことなんで……」
「でもお前は解決してないんじゃないのか? 」
そい言われて解決なんてどうやったらできるのかと聞こうとした。それは清藤に聞くことじゃないのは充分わかっている。過去の感情を呼び起こされてイラつき苦しんでいるこの感情は解決していないってことになるのかと、冷静になればクリアになってくる。所詮時間と共に消えて無くなっていくと無理矢理心の奥にしまい込んで蓋をした。
「解決も消化もできていないって顔だな。それは一大事じゃん」
荒げず穏やかに一大事だという清藤のチグハグな言動に、言ってしまったことを後悔し始める。
「話があるって二年も経ってから言ってきたんだし、いい機会だからそのお前のモヤモヤを解消して消化させよう」
「消化って……」
「そんな奴らに俺の元希の心を揺さぶられてたまるか。俺が立ち会ってやる。そいつに連絡を取れ」
職場を思わせる口調の清藤に真田の背筋が伸びる。
「承知致しました、課長」と口走りそうな感覚になる。
「俺の為に……尽力を尽くしてくれる愛おしい恋人の為に、俺だって力になりたい。俺の場合はもう聞くことができないけど、元希の心の傷は俺が癒すのが役目じゃないのか? お前が一人で苦しんでるって思うだけで俺だって苦しいし悲しいよ」
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