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第69話
目の前にはもう二度と会うことはないと思っていた学生時代の友人が座っている。あの頃より少し痩せ、覇気のない表情で項垂れていた。
「話って、何?」
河野の後ろに座った清藤の後頭部が見える。そこに清藤がいると思うだけで尖って荒立つ気持ちが穏やかになっていくような気がする。
「……お前の彼女を……本当にごめん。謝っても許されないことだけど……」
テーブルに頭を擦り付け河野は頭を下げた。もう二年。あの頃の感情はそのまま蘇ってきてるわけじゃない。その時の憎しみや悔しさが鎧となり憎悪の形を作っている。
それでも、無造作に整えた清藤の髪が不意に河野の後ろで揺れる度に心に穏やかになる。
「もう、終わったことだから。彼女がお前とどうしてそうなったのかなんて聞きたくない。俺にだって悪かった所もあったし……事実は彼女が河野を選んだってことだから」
重い空気が流れる中、河野の言葉を待つ。何度も口元を押さえ運ばれた水を飲み、挙動を見せる河野は何か言いたげで言葉を探しているように見えた。
それを何も言わず真田は待った。自分からはなにも話すことはない。
「選んだ訳じゃないんだ……真田のマンションで待ち伏せして、まさかこんな風に話せるなんて思ってもなかったから、どこからどう話していいか……ごめん。彼女とは……真田と別れた後、何度か会ったけど、付き合ってはないんだ。彼女も後悔してた。真田を裏切ったこと、俺と真田の関係を駄目にしたこと、悔やんでた。俺も……彼女を特別好きなわけでもなかったのに……お前と……いや、真田を傷つけてずっと後悔してた。それでも……それには理由があって……それを聞いて欲しくて……」
歯切れの悪い物言いに苛立つ気持ちを河野の向こうの清藤が和らげる。その正反対な感情に真田は溜息混じりに苦笑する。
「……こんなチャンスもうないかもしれないから……俺さ、ずっとお前のことが好き……だったんだ……」
河野の口から思いも寄らない爆弾が投下され、真田は呼吸を忘れ目を見開いたのと同時に、河野の後ろの清藤が凄い形相で慌てて振り返り身を乗り出す。ハッと我に帰った清藤は元の位置へと戻っていったが、目の前の真田は何を言われたのかあまりの衝撃で理解する思考を取り戻すのに時間を要した。
「は、はぁ?それ……どういう……」
まさかこの状況で河野が冗談を言うわけがない。待ち伏せをしてまで伝えたい想いを抱えてこうして話していることは、きっと清藤も判っているはずだ。ならお前が好きだと言う河野の本心は真田に向けられた真実の感情だと……思いたくはないが、まさかの真実なのだと背もたれに力の抜けた身体を預け深く息を吐いた。
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