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第73話

それは清藤のことだろうと思いながらも擦り寄ってくる清藤がなんだか可愛く真田はその身体に腕を回す。 「今日は濃い一日だったな……ちゃんと話せて良かったな」  もしかしなくても清藤も過去の人の事を聞いて欲しかったのではないかとふと真田は思った。  河野に会った衝撃で、その前にあったことが薄らいでしまったようだが、祖父の店に行けば否が応でも思い出す過去の人を断ち切りたい思いがあったのかもしれない。    次に祖父の店に行けば、元カノの思い出は少しずつ真田との思い出に塗り替えられて色は褪せていく。  しかしそれを聞こうとは思わなかった。聞かなくてもこれから清藤のそばには真田がいる。それだけで過去の忘れられない想いは少しずつ色褪せていくだろうと真田は思っている。    重なった唇は何度となく触れ、角度を変え深く繋がっていく。ここは玄関で、考えてみれば今日一日まともな食事をしていないことに気づく。  清藤に食事をさせたい。きっと普段から偏食をしているに違いない清藤の為にサラダを多めに買った。  それを横目に誰が食べるの?というような訝しげな顔で見ていた清藤に真田はいやらしく笑顔を見せた。  溜息を吐きながらも買ったものを持ってくれた清藤の隣を歩いていたはずがいつの間にか競歩のように競い合って帰ってきた。  無心で競い合って冷静な顔つきのまま何を考えていたんだろう。この部屋に入った途端、押し倒し熱い抱擁に身を委ねながら、清藤の心中を考えた。 「友海さん、先に飯食お?あんたに飯食わせたいんだけど」 隙間を見つけて囁けば不服そうに至近距離から睨みつける。 「空気読めないの?」 「慌てて帰ってきたのはその為とか言わないよね?」 「他になんがあんだよ」  頬袋を膨らませる清藤が何だか幼く見えた。そんな誰にも見せない表情を見せてくれる清藤が可愛くて愛おしい。 「飯食って風呂も一緒に入ろ?ここでするわけにもいかないし……ね?」 機嫌を損ねないように見つめればゆっくりと真田の身体を起こして膝に跨り縋り付く。 「わかったよ。飯食おう。でもサラダは……」 まさか……それが嫌でセックスに持ち込もうとしたのか……? バツが悪そうに顔を歪めた清藤を見て真田は声を上げて笑った。 「だってお前……なんで蓮根とひじきのサラダなんて買うんだよ……嫌がらせとしか思えない……」 その駄々っ子のような物言いに更に声を上げて笑う真田を恨めしそうに睨みつけた。  

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