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第74話
テーブルに並べた惣菜に目の前に座る清藤は大きく溜息を吐く。
温め直した惣菜はこの辺りでは評判のいい店のものだ。白飯は要らないと言った清藤の前には麦酒が置かれている。なるべく腹に溜まりそうな物を選んだのは正解で、何でもいいと興味を示さない清藤を横目に真田が選んだものだ。
清藤は食が細い。仕事柄食べる時間は時短にしたいのはわかるが、それではいつか体に支障が出る。
真田が惣菜を温めている間に清藤は部屋着に着替える為、寝室へと消えていった。その隙にキッチンを物色して真田は溜息を吐いた。冷蔵庫にあるものは作ってくれる予定だった食材だけ。小さな冷蔵庫には水と麦酒しか入っていない。
買った食材と調味料も一緒に入っている有様だ。
真田は社会人になる前の学生時代はほぼ毎日自炊をしていた。会社に入り営業職につき、不規則な生活で自炊は疎かになってはいたが、休日は作った物を食べるようにしていた。
……これはダメだよ……
吐いた溜息はそれが理由で突っ込まれた袋から常温で構わないはずのパックの白飯を取り出しレンジに放り込んだ。
「ご飯は要らないって言ったよね?」
テーブルに並んだものを見て清藤は眉を寄せる。
「少しは食べて。残ったらお茶漬けにしたらいいから」
真田は自分の弁当の真ん中にある梅干しを裏返したパックの蓋に乗せた。
「本当は好き嫌いして欲しくないけど、要らないものはここに置いて。俺が食べるから」
パックの蓋を二人の真ん中に置き、袋から取り出した箸を清藤に差し出した。素直に受け取った清藤は指の間に箸を挟み手を合わせる。
清藤の食事管理をしていかなきゃと使命感のようなものを真田は持ち始めている。
こうやって二人で食事をする時だけでも清藤に栄養のある物を食べて欲しい。目の前に並ぶ惣菜に叱咤し、次回は自分が作ろうと心に決めた。清藤の身体を形成するものは自分が作ったもので成り立たせたいと決意を固く持つ。
「お茶漬けか……いいねぇ。久しく食べてないなぁ」
食欲が湧いてきたのか目の前の肉じゃがを頬張った。空きっ腹に麦酒を流し込まなかったのは及第点だと真田は笑い手を合わせた。
そして、どうにもどうしても気になって仕方がない清藤の姿と嫌な予感しかしないざわつきを胸に問う。
「友海さん……その服買ったの?」
視界に入ると目がシュパシュパと痛くなりそうな蛍光色の強いパステルイエローのパーカーは見たことがない。
普段の清藤はモノトーンでシックで物が異常に少ない。いつも持っている鞄は名ばかりでほとんど物は入ってはいない。イメージとかけ離れているその様に慣れないでいる真田は、寝室から現れた清藤を愕然と見入ってしまった。
「いい色だろ?一目惚れして買ったんだ。お前のもあるから」
着ている服に目をやって嬉しそうに微笑む。
自分のもあるのだと聞き、このシュパシュパと目の痛む蛍光色の強いパステルイエローのパーカーを、この食事の後は必然的に着るのだと……清藤と視線を絡ませながら真田は肩を落とし苦笑いを浮かべた。
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