78 / 157
第78話
風呂から上がった二人は腰にタオルを巻き付けたまま寝室へと直行した。
「終わったら、聞きたいことが沢山あります。聞いていいですか?」
覆いかぶさる真田は不安げに清藤を覗き込み瞳を揺らしていた。どんな表情も清藤には堪らなく愛おしくて仕方がない。
自分に向けてくれる愛情はヤキモチでさえ嬉しくて堪らなかった。
「隠すことなんて何もない。聞きたいなら聞けばいい。だけど、お前が気分悪くなることは話したくはないかな」
真田もまた自分の気持ちを思い気遣う清藤に堪らなくなる。
「俺だって、付き合ってた彼女くらいいます。ヤキモチ妬かないかは約束出来ないけど……あんたのことは全部知りたい」
そんなに思い詰めなくても大した過去はないのにと真田の身体に手を這わせ少しでもその尖った感情を和らげようとする。
「何も心配しなくても、そんな大した過去なんてない。ただ付き合った相手が同性愛者だっただけだ。それが心底惚れてたのかって聞かれたら……こうやって元希と付き合ってあれはなんだったんだろうって思うよ」
真っ直ぐ見つめてくる清藤の漆黒の瞳は真田へと向けられている。
人に裏切られ、どこか信用しきれないのは恐怖心だと真田はわかっている。
人の感情の深さは誰にもわからないと河野に会って改めて感じていた。
知り過ぎればモヤモヤが募ることはわかっている。それでも清藤の全てを知りたいと思うのは恐怖心より愛情が勝っていて、また自分が人を信用したいと思っていることにブレーキをかけようとは思わなかった。
「あんたになら何されたって後悔しない。たけどこれだけは約束して?嘘だけはつかないって……」
「当たり前だろ。嘘を付けばその嘘に嘘を上塗りしないといけなくなる。そんなしんどいことはしない」
伸びてきた掌が頬に触れた。その手に頬を擦り寄せ体温染み込んでいくようで味わうように瞳を閉じた。
「そんな過去の傷は俺が癒してやる。お前を誰にも渡したくないからな。お前だけを愛し貫くと誓うよ」
「男前過ぎる……」
再び光を取り戻した真田の瞳はゆらゆらと揺れていた。両手で頬を包んだ清藤は優しく微笑んだ。
「俺の為に受け入れようと勇気を出してくれて、堪んないよ。愛おしくて堪んない……嬉しくて小躍りしたいぐらいだ」
こぼれ落ちそうなその瞳を指先で拭ってやると真田は微笑み甘えるように清藤を抱きしめ、肩先に顔を填めた。
ともだちにシェアしよう!