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第84話

 清藤の言葉はストンと胸に落ち隅々に染み込んでいく。  愛おしいと思えば思う程、不安は増えていく。真田はこんな感情は苦手だと思う反面、愛する人が愛してくれるという幸せは限界などなく満たしてくれることも知っている。  「俺から離れるなんてありえないですから。死んだってあり得ない」  「縁起でもない事を言うな」  葬儀から帰ってきた清藤の前で死ぬなんてことはとんでもない事だと解っている。物の例えであって死んでもまた生まれ変わっても別れたくないと言う願望にすぎない。だが例えであっても今の状況は不謹慎だったと真田は肩を竦めた。 「例えばの話だから。死にたくない。ずっと友海さんといたい」  そんな小さくなった真田に溜息をついて見せた清藤は、テーブルの上の弁当を真田の隣へと移動させ自らもその前に移動した。  並んで座る真田を自慢にもならない華奢な腕で力強く引き寄せた。 「俺だって死んだって離れたくないって思ってる。俺が死んでお前が他の誰かと……なんて思ってら呪うよ、きっと。それくらいお前のことは誰にも渡したくない。俺は覚悟が出来てる。何があったってお前と二人で必死に働いて楽しく爺さんになるまで一緒にいたいっていう覚悟」 語りかける清藤の声は甘く優しく真田を包み込んだ。 「今日は何もしないで……あんたの体温感じて眠りたい。ずっと抱きしめてたいよ……」 しがみつく愛おしい塊を抱きしめる清藤は、痺れるような甘い電流が身体中を駆け巡り胸を締め付ける愛おしさに幸せを噛み締めていた。 「何もしないのか?俺はしたいけどなぁ」 胸元で小さくなっていた愛しい塊はもぞもぞと顔を上げ耳まで赤く染め瞳を潤ませている。 どうしてやろうかと思うくらいに可愛く愛おしい。愛くるしい縫いぐるみ達にも勝る可愛さをその塊は見せつける。 「……じゃあ、ちょっとだけ……」 それでもオスの顔をチラつかせた真田は自分を虜にするには充分過ぎる存在だ。こうやってこいつに嵌っていくのかと、また改めて清藤はもう後には戻れない覚悟をしていた。 「さっさと食べて風呂へ行くぞ。ちょっとだけなんて言う奴は後悔させてやる。全力で頑張ってもらうから」 中途半端を許さない清藤の言葉に驚き泣き笑いの顔を見せ、真田は弁当に喰らい付いた。

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