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第87話
清藤の家族の話。それは会話の中に含まれてこなかったカテゴリーであっていつの間にか聞いてはいけないと真田は思っていた。
聞けば必ず教えてくれる。だが、敢えて口にしない清藤に聞いてどうなるものではないと触れてはいけない領域のようになっていた。
「俺の親はさ、俺が生まれてすぐ海外に移住したんだ。母は故郷のブラジルに住んでる。爺さんが俺を連れて行くことにえらく反対して俺を置いて移住したんだ。向こうで二人は別れて今は別々の人と暮らしてる。爺さんはあの時俺を連れて行かせていれば別れなかったんじゃないかって後悔してるから、俺はあまり親の話はしない。懐かしむ話もないしな」
食べ終わった清藤は真っ直ぐな瞳を真田に向けた。
「だが、俺はハーフじゃないぞ。純血の日本人だから」
純血か混血かなんて真田は気にしていなかったが、清藤が妙に真剣な顔で話すのでクスリと笑った。
「友さんがハーフでも俺は好きだから。そんな心配は要らないよ」
「そっか……ハーフじゃないのかってがっかりされると思ったんだけどな」
「なんで、がっかりするの?それに俺は友さんの両親がどこでどう生活されてても、ここにあんたがいればそれだけでいい。もし、ご両親のに行くことになるんだったらおれは迷わずついて行く」
「もう少し捻りが欲しかったな。まあ、いいか。俺が親の所に行くことはないと思うしな。母親は清藤の家にやったんだって言ってたし……」
清藤の家の為に産んだ子供……そんな愛のない物でも扱う物言いに困惑したが、今となっては、清藤が両親と一緒じゃなくて良かったと思う自分の身勝手さもどうかと思ってしまう真田がいる。
ここでこれから自分といて幸せだと思ってくれればいい。これからの方が長い人生なんだからと言い聞かせるように自分の思惑を鎮めた。
それから俺達は清藤の案内で新居となる清藤の思い出の詰まった家へと脚を向けた。
即行動する清藤は会社での清藤を覗かせる場面でもあったが、そんな部分も自分は好きで尊敬している事を再認識しながら寝癖のついた清藤の飾らない後ろ姿を微笑ましく思いながら歩いた。
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