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第90話

「すっかり仲良くなっちゃいましたね。羨ましいなぁ」 営業部とのミーティングを終えフロアに戻る真田の横を歩く是澤がため息混じりに言った。 「もう清藤さんの補佐って感じだし、阿吽の呼吸だし、もうどうやったらそんなに信頼関係が築けるのか教えてくださいよ」  背格好から言えばさほど真田と変わらないはずだが、是澤の息は少し上がっている。コンパスの違いか、真田の歩くスピードについていけないのか。そんな是澤を横目に真田は歩くスピードを落とした。 「そんなことはないでしょ。是澤さんの方がよっぽど課長補佐って感じでしたけど」  どちらかと言えば清藤のサポートをし損ねた感はあったが、清藤は上手く是澤をサポートに付けていた。 そんな清藤の機転の速さと汲み取る能力の凄さは目を見張るものがあった。  さすがあの若さで課長になり得る人だと、それが自分の恋人だと思うと誇らしくそれと同時に尊敬できる上司の下で働ける喜びに感慨深く清藤を見ていた。 「俺のは清藤さんが上手く使ってくれたから……でも悔しいよな。まだまだ修行が足りないんだよ、俺は」  歩く速度を緩めれば、息の整った是澤は一人反省会を始めた。そのぼやきを聞きながら清藤を、先程までの清藤の勇姿を思い出していた。  新しく展開される商品のプレゼンは営業があって市場に出回る。その為にはいかに営業のやる気を起こさせるかがプレゼンにかかっている。  結果、清藤のプレゼンに魅了されたのか、清藤に魅了されたのかわからないが高居部長は大いに乗り気だった。  その姿を部屋の隅で傍観していた二宮部長は何故か終始、無表情だった。  会議が終われば早速、清藤を呼び寄せミーティングルームへと消えていった。 「俺なんて清藤課長に恥をかかせないかヒヤヒヤしてました。是澤さんには敵いません」  目が合った是澤の瞳に輝きが戻った気がして、その単純さに胸内で笑う。だがその素直さはまだまだ伸びしろがある。スポンジのように柔らかい脳は吸収がいい。不意に、昨日清藤が自分に言った言葉が蘇る。 『元希は真っ直ぐで柔軟な所がいい。スポンジみたいに柔軟に吸収してそれを自分の肥やしにしろよ。教えてもらうんじゃない。見て感じて覚えていく。それが自分の肥やしになると俺は思ってる。見て覚えることはそれに対して考えるだろ?その問題意識が大切なんだ』  真田はその言葉を昨夜から何度も反芻していた。  清藤のサポートではなく同じ目線で仕事がしたい。清藤と一緒にいることで公私ともに清藤と肩を並べて仕事がしたいと願望は目標に変わっていた。  企画部に戻り、メールの確認を済ませた頃、清藤が戻ってきた。その表情からは部長との会話の内容はわかるわけがないが、目で追っていた真田の視線を清藤は拾い、職場での厳しい清藤から想像もつかない、目尻を下げ可愛く肩をすくめて苦笑する。ドクンと真田の胸は跳ね、慌てて周りを見回した。    その指先はいつもの喫煙所を指していた。一瞬の誘いを平然を装って受け取った真田はその可愛い表情は反則っだと、誰かに見られでもしたら恋敵が増えるじゃないか!と胸中でぼやきながら清藤の待つ喫煙所に足早に向かった。  

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