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第92話
「そんなことないって言ってくれよ。さっきもミーティングルームで情事の後みたいな顔し上がって!って言われてさ……」
そんなことはない!と、言いたいがそう言いながら真田を見つめる清藤の瞳は何故か潤んで扇情的で、頭を掻き眉を下げた。
自分がさせているのだと思うと嬉しいことこの上ない。だが今は仕事中で、同じフロアで働いていることが問題なら異動もあり得る事案だ。そんなことになれば、清藤の下で働く夢が奪われてしまう。
もっと清藤の下で学びたい。それは付き合う前からの夢であって同じ立ち位置で働きたいという目標でもある。
だが、仕事に支障が出てしまえばそれは泡のように消えてしまう。
「申し訳ありません。俺の責任でもありますよね。公私混同しないように話し合いますので…」
「なんで肯定するんだよ!俺はちゃんと仕事してるし!公私混同なんてしてない!」
「してない奴が惚れた相手を見て瞳を潤ませたりしない。少なからず感情がここに残ってるまま仕事してるんだよ」
清藤の胸をツンと突いた二宮は溜息を吐いた。部長を不服そうに見ていた視線は真田へと流れる。それを拾った真田は肩を竦める。
「お前から見ても俺は腑抜けてんのか?」
「まあ、俺は当事者なんで愛おしく見えてしまいますが……でも会議は滞りなく有意義なものでしたよね、二宮部長?」
「会議内容は完璧だった。申し分ないが、お前の態度と表情に問題があるんだよ!」
「それは俺と真田のことを知っている色目なんじゃないですか?俺は断じて問題ある態度なんてとってません!」
ミーティングルームでのやりとりを手に取るように理解した真田は愛する清藤を加勢することにした。
「俺は少し柔らかい課長も親しみ湧いて良いと思いますが。尖っただけの課長じゃなくてフランクな雰囲気も高感度であって良くないんでしょうか?」
清藤と真田の顔を行き来する二宮の瞳は唖然を物語り揺れる。
「二人してまったく……仲良いのは喜ばしいことだが立場を考えろ。清藤は役職者なんだ。同じフロアに恋人がいてもやるべきことは今まで通りでやってくれ。示しがつかん」
わざわざ並んで立つ二人の間を割って、二宮はスモーキングスペースから出ていく。その態度もどうなのかと思った真田ではあったが、その姿を釈然としない表情で見送る清藤は、空間のできた真田との間を素早く埋めるように肩を並べた。
……ああ、それが公私混同だって言われてるんじゃないの?……
無意識に寄り添う清藤に愛おしく思う反面、どうしたものかと晴天の空を仰いだ。
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