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第93話
「部長の言い分もわかるでしょ?」
清藤の部屋で真田の作った夕飯をテーブルを挟んでつつき、会話の内容は遅い休憩での二宮とのやりとりについてだった。
「なんだかさぁ、色眼鏡的な目で見てる気がするんだよ。俺と元希が付き合ってるのを知ってるからこその目線だろ。知らない奴から見ればそんな風には映らないはずだろ」
それはそうかも知れないが、もしバレたらどうするんだって事を二宮は注意しているわけで、付合い自体を咎めてはいない。清藤が色眼鏡で見ていると拗ねるのもわかるのだが……
「俺は友さんと付き合ってること会社でわざわざバラしたくないですよ。それで友さんの立場が悪くなるのは避けたいです。俺は友さんとずっと一緒にいたいですから」
当たり前の様にそう言い、美味そうに唐揚げを頬張った。それを当然と言わんばかりな態度に清藤はそれまでモヤモヤと燻った気持ちがスッと剥がれ落ちた気がした。
二宮の言い分はわかるが、プライバシーを持ち出して小言を言われる筋合いはないと思っているし、いくら世話になっている二宮でも元希との付き合いについて口出しされることに苛立ちを感じていた。
「お前とずっといられる努力か……そうだな。分かってもらえる人には公にしてもいいかもしれないけど、わざわざおおっ広げな行動や態度は意識して控えるよ。お前の立場が悪くなるのは困る。一緒に働きたいし、この先の一緒にいたいしな」
憑物が落ちた様に笑顔の戻った清藤の表情に、真田は密かに胸を撫で下ろした。思い立てば突き進む人だ。どう転ぶかわからない清藤の思考に一か八かそれとなく清藤を思いやる言葉を含ませたのだった。
本心ではないことはない。清藤の立場が悪くなるのは困る。偏見の目で見られるということも。
なら誰にも公にしなくとも清藤と一緒にいられるのならそれでいいと思っている。
社会人として、大人として。なりふり構わず子供の様に独占欲丸出しで独り占めできるわけじゃない。
独り占めは二人だけの時にすればいい。表向きはそうしたいと思っている。同性で上司でこの先何が起こるかわからない付き合いでも、日々を大切に暮らしていきたい。
目の前に座る食欲を取り戻した清藤は真田に負けじともりもり頬張り咀嚼を始めた。
一度、二宮と二人っきりで真意を話さなければいけない。それをこの人にどう切り出すか……目の前の咀嚼に忙しい可愛い人を見ながら真田は悩み始めていた。
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