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第95話
「お前は本気で付き合ってるんだよな」
今更の確認だが、プライベートを上司に報告する義務はないとムカつきながらも、敢えて堂々と応えた。
「今更ですよ。あの人を抱いた時に覚悟は決めてます」
「抱くってってお前……」
仕立ての良いスーツを着こなしたダンディな上司は、大きく瞳を見開きテーブルに覆い被さるように項垂れた。
「想定内でしょう。男同士なんだからどちらかが抱かれてるんです。それなりの覚悟で付き合ってることは分かっていただけますか?こんなこと言わなくてもあの人の雰囲気が変わった時点で……」
「わ、わかったよ!それ以上言わなくていい。お前たちが同意してのことなんだろうから……まあ、仲良くやってくれ……ああ、うん、そんな時になんなんだが……ここに呼んだ本題だが……来週の日曜の午後からなんか予定はあるか?」
来週は引っ越し準備でお互いの部屋を片付ける予定にしていた。再来週はいよいよ清藤との同棲生活が始まる。部屋を案内してくれたあの日、早速引越業者に予約を入れた。さすが仕事が早い!と、まあ自分も早速と思っていたのだが、自分との未来の予約を心待ちにしているかのような、清藤の身に付いた迅速な行動力が嬉しくて胸を熱くした。
「いえ、引越準備をするだけなんで」
「引越し?」
「ええ、一緒に住むので」
「ええ?……そんなに話は進んでるのか……悪いが、午後から予定を開けてくれ。午後一時○○ホテルで高居部長のお嬢さんと見合いな」
立ち上がった二宮を見上げ、真田は唖然とした。その放たれた言葉を理解するのに暫し、いや、数秒で理解し、その衝撃の反動で椅子を蹴り倒す勢いで立ち上がった。
「今の話聞いてらっしゃいましたよね?」
「誰も付き合えなんて言ってないだろ?向こうさんが偉く真田君を気に入ってらしてな、一度お会いしたいそうだ」
「友さんがいます!」
「だからそれを決めるのはお前だろ?俺は伝えただけだ。元上司のお嬢さんだし、それにこれからのお前にもいい話だと思うけど」
「いい話かどうかは自分で決めます」
「だから、俺は伝えて助言しただけだから。決めるのはお前。若いんだからこれからだってそんな出会いは沢山ある。色んなことを選択して生きていくだろ?」
確かにそうだが……何故自分たちのことを知っていながらそんな話をもってくるのか。嫌がらせを勘ぐっても当然だと思うのだがと、真田は二宮を睨みつけた。
そんな真田を横目に「伝えたからな」と言い捨て、ミーティングルームを後にした二宮の本意をその背中を見送りガチャリと音を立てドアが閉まったと同時に、どうなってるんだと額に手を当て項垂れた。
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