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第99話

 お見合い当日の真田は可愛く奇妙な行動を見せていた。それさえ清藤は嬉しくてその手を取って踊りたいくらいだった。  目覚めると、身体に巻き付いた腕の嬉しい重みとその視線に「おはよう」と声をかければ光を取り戻したようなキラキラした瞳が返事を返してくれる。  顔を洗おうと洗面所に立てば、大型犬が後を付いてくるように後ろに立ちじっと見つめる。 清藤が見立てたスーツに袖を通し、ネクタイを結んでやる間、長い腕は清藤の腰に巻き付いていた。 「どうした?不安なのか?」 スーツの襟元を撫で生地の感触を楽しんだ後、指先で頬に触れる。すかさずその手を握り締めた真田は瞳を閉じゆっくりと開いたその瞳に清藤を映す。  曇りのない綺麗な瞳に吸い込まれそうになる。手のぬくもりとその包み込むような柔らかな感触から自分は本当に愛されているんだと実感していた。 「友さん、愛してます」  寝起きそこそこに必死に伝えてくれる愛の告白が聞けるならこんなイベントがたまにあってもいい。などとは真田には言えないが、気持ちを確かめるにはいいのかもしれない。 「俺も愛してるよ。どんなことがあったって俺はお前を愛してる。何も心配いらないよ。お前はそれを信じていけばいい」  それは刷り込みににていると清藤は思った。何度でも刷り込んで骨の髄までしみ込んで自分なしでは生きていけなくなればいい。そう自分と同じになればいいと。 「行ってきます。終わったらすぐ帰ってきますので家にいてくださいね。あ、そうだ。明日は買い物に行きましょうね。リスト作ってもらってもいいですか?」  いつもより早口で、自分に仕事を与えておき、その間も二人のことを考えていろという独占欲なのか。可愛くて閉じ込めて誰にも見せず隠してしまいたい衝動にかられ清藤は戸惑った。誰かを監禁じみたことをしたいなど思ったことはない。それでも自分を愛してくれる恋人を囲い込みたいと思うなんてと苦笑いを見せた。 「早く行ってこい。俺はここでお前の帰りを待ってるよ」 「友さん、行ってきます」 「ん、行ってらっしゃい」  後ろ髪を引かれながら真田はドアを閉めた。  清藤はその日、時計を見るのをやめた。今頃どうしているだろうかなどと考えたくないからだった。  何も不安はないと言い聞かせているのは自分自身だった。何も心配はいらない。真田は全身全霊で自分を愛していると言い聞かせていた。い。  荷造りを終わらせた閑散としたマンションはただ寂しく冷たく感じた。     

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