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第102話
ドアを開けた瞬間、目の前で起こっている状況を、急いで帰ってきた真田は呼吸を忘れて愕然と眺めていた。
愛する恋人が慕う上司の腕の中にいる。それはどういうことなのか。
その潤んだ瞳のわけは?何か情事の後のような状況に呆然とした。
「もう終わったのか?」
暢気そうに声をかける二宮の声にハッとする。
「何、やってるんですか?」
その叫びにも似た問いに清藤の身体が二宮から離れ、真田の胸に飛び込んでくる。たった数歩の場所にいるのに勢いよくダイブした。
「心配してきただけだ。お前が思ってるようなことはないよ」
何を思ったのか分かったっていうのか。心の中で湧いた感情を二宮にわかるはずはない。
「そんな睨むなよ。これでも責任感じてここに様子を見に来たんだ。疑われるようなことは何もないよ。真田が思うようなことは誓ってない」
腕の中にある体温。それは愛して止まない恋人である清藤の温かさだ。その身体を放さないとばかり腕の中に囲い込み抱きしめた。
二宮との関係を疑っているわけではない。そんなことは絶対ないと思っている。
なぜここで潤んだ瞳の清藤を抱きしめているのかを伺っているだけだ。
「責任感じて様子を見に来てくれただけだよ」
腕の中で清藤はそう真田に云った。
「もう心配ないんでお引き取りいただいていいですか。ここは俺のプライベートでもあるんで」
『そうだな』と苦笑いを浮かべた二宮は肩をすくめた。
狭い玄関で立ち尽くす清藤と真田のそばをかいくぐり靴を履く。そして清藤の頭をそっと撫でた。
「友、心配はいらないみたいだな。でも何かあったら何でも言えよ」
そう言い残し真田と目も合わせず二宮はドアを閉めた。
見合い話を持ってきたことで清藤の様子が心配で見に来たと云った。自分のいない時間を狙ってきたことに怒りを感じるが、それより清藤の様子のほうが心配だった。
「なにもされてない?」
そう聞けば清藤は真田の胸元で左右に首を振った。
「……見合いはどうだった?」
か細く囁いた声は震えているように感じた。出ていくときはそんな素振りは見せなかった。いなくなった途端何が起こったのか。それが知りたかった。
「何があったん……!?」
清藤が指が白くなるほど強くつかんでいる物に目がいく。それは今朝、洗濯機に放り込んだこの部屋専用の若草色のスエット。乾燥が終わって畳もうとしていたんだろうか。
「洗濯物、畳んでたの?」
そう問うと、ハッとしたように見上げた清藤は口元をスエットで押さえ、耳まで紅く染め見たこともないような引きつり笑いを見せた。
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