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第104話
「不安になったの?」
抱きしめた清藤の腕が真田の背中に回る。それにほっとしながら優しく撫でるように聞いた。
背丈はそこそこだが線の細い身体と均整の取れた顔。完璧なまでの仕事をこなし、部下にも厳しいが自分にも厳しい清藤の、弱くて脆い奥深いところにある素の部分に触れているような気がしていた。
「仕方がないだろ。人の気持ちは鎖で繋ぐことができないからな。お前の気持ちが揺れる相手に出会うかもしれない。でもできたらお前を誰にも見せたくないって思ってしまう。見合いなんて行かなくていい……俺がいるのに何で行くんだろうって……本当に帰ってくるのかって思ったら不安になったんだ」
真田は気丈な清藤が、そんな脆くも儚くそして愛くるしいことを囁く清藤を抱きしめた腕に想いを込めた。
「そうやって言っていいんだよ。それが友さんに与えられた特権だから」
「特権?」
「そう特権。恋人なんだからわがまま言っていい特権。俺だって行きたくない。友さんがいるに行く必要ない。あの上司の顔を立てるためだけに行ったんだから」
先程までこんなにも愛おしい清藤を抱きしめていた上司の顔が浮かび眉間に皺を寄せる。
触っていいのも抱きしめていいのも自分だけの特権であるはずなのにあの上司は軽々と踏み込んで来ることが腹立たしく疎ましい。
清藤との関係性に文句は言いたくないが、清藤の前にあるハードルは低い。
「ちょっと二宮部長との距離感って近すぎやしませんか?俺はそれを見る度モヤモヤしてるんです」
見上げた清藤の瞳と視線が絡まる。その瞳は「何を言ってるんだ、馬鹿じゃないのか」とでも言うように眉間に皺を寄せ首を傾げる。
「前にも言ったけど誠治さんとは何もない。ただ俺の過去のことを知ってるから心配してるだけだ」
「それでも俺の気分は良くないんです。妬いたって仕方ないと思うけど、友さんのことが好きだから触ってほしくない」
「……妬いてんのか?」
「当たり前です!ヤキモチ妬いて嫉妬する。それが俺が友さんの恋人である特権だから。俺、こう見えて独占欲の塊なんですから」
見つめ合った清藤の眉間の皺は消え、握りしめた手は掌を合わせ指を絡め隙間なく触れていた。
「独占欲……元希も俺と一緒?」
「そうですよ。俺達愛し合ってるんだし。あんたの嫉妬も、俺のモヤモヤも根本はお互い大好きだから起こる感情でしよ」
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