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第105話

 「愛し合ってる……そうだよな……ヤキモチ妬いてもいんだよな……」  「当たり前です。それが恋人の特権なんだから。友さんは嫌なものは嫌だっていっていんです」  清藤のこれまでの過去の恋愛は満足に我儘さえ言っていなかったことがわかる。それならば自分がどろどろに甘やかしてやりたいと思う。それは自分の特権なのだからと、少しずつ清藤の心により添えているような近くなった関係性に上司と部下の垣根を越えて恋人だと名乗れるような感覚が嬉しい。  「……俺がいるんだから見合いはもうするな……こんな感じか?」  「その調子です。もっと感情的に言ってもいんですよ」  「……俺だけを見てて。どんな形でもお前が他の奴のことを考えてるのは嫌なんだ。お前は俺のものだからな」  見つめ合う清藤が瞳に自分を映す。それは愛おしさを含む澄んだ瞳。かつて欲くて欲しくて堪らなかったものだと真田の胸は熱くなる。欲しがる科白は及第点だが、物語るその瞳は言葉よりも自分に対する想いを物語っていた。   「よそ見なんかしません。する暇なんてないくらい俺は貴方に惚れてますから」  真田の言葉の一つ一つを聞き逃すまいとでもいうように清藤は真田から視線を放さない。それが嬉しくもあり、あの憧れの清藤が自分を好きだと囁くこの奇跡が、巡り合うべくして出会った相手だということに何度でも歓喜を覚える。  何度伝えても伝えきれない思いに真田は心を込めて清藤の形のいい唇に指を這わした。  「俺も惚れてる。付き合い始めた頃よりもっと気持ちは深くなってる。だからヤキモチ妬いちゃうんだよな。言われないとわからないなんて恋愛音痴でごめん」  その唇が動くたび自分への愛の言葉がこぼれる幸せが真田の胸を打つ。  「恋愛音痴でも可愛いからいいです。それに上手くならなくていいですよ。俺は手慣れた友さんより今みたいにヤキモチ妬いて不安になる友さんのほうがいい。俺も恋愛経験あんまないんで」  「いっぱい彼女いたのに?」  「あれは……恋愛じゃないんで」  「遊びかよ、ひどっ」  「仕方ないですよ、自棄になってたってのもあるし……」  「まあ、いいさ。本気の相手が俺で良かった」  頬に添えた掌に頬を預け、可愛く笑う恋人は格好良くて可愛い憧れていた上司。  惚れた相手の性別なんて関係ない。この人が愛おしい。  囲い込むように抱きしめた清藤の温かさに何があっても離さないと誓った。  

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