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第106話

 枕元に置かれた清藤の大切な可愛い子達が歓迎するかのように倒れこんだ清藤の髪に触れる。  そんな可愛い子達に目もくれない清藤の意識は、伸ばした手の先にいる真田に真っすぐ向いていた。  その手を求め、吸い込まれるように清藤に覆いかぶさり、背中に回った手が真田を撫で抱きしめた。 「友さん、早く引っ越そう。もう必要なものだけ運び込んで一緒に暮らそ?」  長く住人のいなかった祖父の家。メンテナンスも今週終わり、いつでも住める状態になっている。  そのことさえすっかり忘れてしまうほど真田の見合いは清藤にとってダメージが大きかった。そう今週の月曜日に祖父から電話をもらっていたことを今更ながら思い出す。    それどころではなかった今週を思い返せば、見合いが近づくにつれ、そのことで頭がいっぱいだった。  平気ではなかった。いつも不穏な動悸とモヤモヤとすっきりしない心中。仕事で不安な気持ちを隠しごまかしていた。清藤はそんな初心(うぶ)な自分にふっと浅い吐息を吐いた。  こんなにも自分の心を占める真田への想い。元カノとは比べ物にならないくらい苦しくなる程切なく、それ以上に愛おしく思うこの感情は初めて味わうものだった。  想い合う気持ちが通じることの幸せは心を満たしてくれる。  比べるわけではないが、自由奔放な彼女の物怖じしない話し方は強烈な印象で、自分にはないものを持っている人への憧れを含んでいたのかもしれない。  そんな分析ができるくらい過去のものになった彼女への感情も、真田の愛情が変えてくれたからだと胸が熱くなる。    声を上げて愛しているといっていい。泣き喚いて我儘をいっていい。  親からも放任された清藤が、初めて心からの感情を吐き出していいのだと言ってくれる、堪らないその充足感に満ち足りた清藤は、何物にも代えがたいその愛しい身体をさらに強く抱きしめた。 「そうだな。メンテナンスも終わったみたいだから必要なものだけ持ってあの家で一緒に住もう。引っ越しは後から一緒にしよっか」 「うん……ねえ、友さん。気持ちは落ち着いた?」 「え?あ、うん。もう大丈夫」  何を悩んでいたのかと思うくらいに羞恥こそひた隠しに冷静を保ちそう応えれば、見上げる真田からこぼれそうそうなほどの優しい笑みと甘い唇がそっと落ちてくる。 その瞬間、微かな吐息で『愛してます』と囁きが耳に届く。もう何も望むものはないと溢れこぼれそうな涙を隠すように清藤はゆっくりと瞳を閉じた。

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