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第111話

「二回も言わなくても……でもありがと。俺はさ、元希の上司だけど、一人の人間としてお前を好きなんだよ。職場では限りなく完璧でいたいと思ってるしそうあるべきだとも思ってる。俺のことを憧れてくれる上司でいたいと思う。でも……本当の俺は完璧ではないし、恋愛音痴だし、気が付かない所だってある…それに……弱い俺を受け入れてほしいと思ってる」 逸らさない瞳。それは清藤の本音ということだと真田は感じる。  弱い部分を曝け出す相手。完璧なまでの上司の拠り所になること。そんな大役……喜んで引き受けたいと真田は清藤の手を握り締め一本一本の指をゆっくりと絡めた。 「恋人の弱い部分は誰だって知りたいと思う。外見の綺麗さや完璧な容姿である前に友さんは俺の恋人だから。どんなことだって知りたいと思ってます。隠さないでほしいとも思ってる。それに恋愛音痴なんて思ってませんよ。逆に小慣れてるのは若干引きます。仕事も容姿も完璧で抜け目なくて、恋愛も小慣れてる友さんなら場数踏んでる、つまり遊んでるってことでしょ。そんな上司なら多分憧れで終わってますよ」 「それってなんだか複雑だけどな……俺の秘密を共有するのは元希だけだから。こんな俺、誠治さんだって知らない。気づいてるかもだけど……自分からは見せてないから」 「その名前、この場で聞きたくないですけど……でも上司で友さんの近くにいた人だから……これからは俺がいるんであの人には頼らないでくださいね」  あの人は清藤の過去を知っている…それを考えるだけで虫唾が走るのだが、清藤が信頼している人物。これ以上は触れず、過去の産物になってもらおう。そう元カノのように。 「別に頼ってるわけじゃないぞ。ただ年の離れた兄貴みたいな感じでさ、困った時にはなんでだか察してきてくれてたって感じなんだよ」  それは絶えず清藤の様子を見てきたということだ。両親とも疎遠でテーラーを営む祖父しかいない清藤の環境をわかった上で動いてきた証拠だ。  真田的には面白くないわけだが、過去を疎ましがっても仕方がない。これから清藤と二人のことなのだから。 「早速、引っ越しの準備しましょうね。俺も結構荷物減らしたんで、大物除けばすぐに引っ越せます」 「俺も手持ちでいけそうなものだけもう運び込んでるから後はベッドと家電だけかな。被るものは相談して処分しよう」  未来を話す瞳は子供のようにキラキラと輝いていて、屈託のない可愛い清藤を真田はいつまでも見つめていた。

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