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第112話

 早速始めた引っ越しは清藤の計らいで簡単に終わった。 「なんかすいません。色々してもらって」 「全部いい感じに手放せて良かったな」  学生時代から使っていたものばかりの家電は清藤の知り合いに引き取ってもらった。  他の荷物は清藤の荷物と共に配送業者に運び込まれていった。  『節約できたな』と爽やかに笑う清藤の行動力に感服する。  あの見合いのあった翌日には配送業者から連絡があった。全ての予定が決められていて、真田は体一つで新居に向かった。  祖父のテーラーの中に入ってみれば、リノベーションされた清藤の育った家。  以前来た時よりもどこもかしこも真新しくなり、逆に清藤にとって良かったのかと不安になる。  「新築みたいにリフォームされてるけど、良かったの?」  出来上がった部屋を一つ一つ確認して回る清藤に声をかけた。 「‘なんで?いい感じになったよね」  小さな部屋を次々と確認し、突き当たりの扉に手をかけ振り向いた清藤は瞳を輝かせ微笑んだ。 「この部屋は俺と元希の共有の部屋だよ」  まるで探検でもしていいものを見つけたみたいな可愛い顔を向ける。  扉の向こうは、白を基調にした十畳はありそうなシンプルな部屋。ベランダから光が差し込み日当たりがいい。そしてど真ん中に置かれた大きなベッド。  これは……これからここで一緒に寝るということか。 「元希、ちょぅと来て座ってみなよ。いい感じだよ〜」  腰掛けた清藤が子供のように飛び跳ねる姿はなんとも可愛くて、伸ばされた手を取り、隣に座った。いい感じのスプリングがなんだか高価だと物語っている。そのままゴロンと横になった清藤に誘われ隣に寝転んだ。 「これだけは俺の趣味で買いたかったんだ。勝手に決めてごめんな」 「いえ、でも俺も半分出しますよ」 「いんだよ。そんなのは。俺がここでお前と暮らしていきたいって言ったんだし、言ったからにはベッドを買うのは当然だろ?」 「でも、俺も友さん住みたいから承諾したんですよ」  キッチンに揃っているものは真新しいものばかりだった。料理は苦手なはずなのに最新の調理器具が揃っていた。 「いんだよ。その代わり毎日ご飯作って?俺は料理できないからさ、元希のご飯が食べたい」 「それはいいけど……」 「それと、もう一つお願いがあるんだ」 「なんですか?なんでも言って?」 「その……あれを……」  歯切れの悪い清藤の願い事。なんだろうと思いを巡らせていると、ふとあることを思い出す。そう。なぜかシンプルで物足りないと思ったはずだ。 「友さん、あの可愛い子達はどうしたの?」  大切に飾っていたファンシーな子達がいないことに気付き問えば、隣で寝そべる清藤は紅い顔をして口元を両手で覆った。 「隠し事はできないな。それだよ。あの子達をまた枕元に置いていい?」  頬を染める清藤はいつもより幼く見える。なんでこんなに可愛いんだ。年上のそれも上司に向ける言葉ではないが恋人ならそれは愛の言葉と同じ。 「友さん、可愛いなぁ」 「……はぁ?」 「可愛くて離したくなくなる」 「アラサーのおじさんに何言ってんだか」 「俺の恋人は可愛い。もう堪んない」  寝転ぶ清藤を強く抱きしめ戯れ合うようにゴロゴロと左右に転んだ。腕の中でモゾモゾと動きいい位置を探し、顔を上げて顎先にキスをくれる。 「お前も可愛い。ほんと堪んない」  

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