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第114話

 色んな店を見ながら両手で足りない程の物を買い込んだ。  清藤の買い物は迷いがない。インスピレーションで買い物をしているみたいに見えるが、内装との相性をちゃんと考えているんだと感心する。  真田はあまりこだわらない性格なので、それこそ百円ショップでことは足りていた。だが清藤は使う用途に応じての専門店で買い物をする。高価なものでは無いにしろ拘りながら買い物を済ませていく。 「友さんってなんか素敵ですよね」 自分の感覚には無い清藤の感性は見習いたいところが沢山あった。 「何が?」 「俺ならぱぱっと百均で済ませそうなんで」 「百均?ああ、そうだな……爺さんの影響かもしれないな」 「あ…… の、寂しくない?」 「え?あ、寂しくはないさ。毎日電話してくるし、ボケ防止だって手紙も送ってくる。快適そうだから心配もないしな。俺は爺さんの全てが好きでさ、爺さんみたいな大人の男になりたいい。なんせ、いちいちかっこいいんだよなぁ、レターセットなんて渋くてさ、あの感性を真似したい」  以前会った清藤の祖父を思い浮かべる。物腰が柔らかく、スーツがよく似合っていた。まあ職業柄ではあるだろうが小物使いが上手く印象的だった。 「かっこいいお爺さんですもんね」 「そうなんだよ、何させてもかっこいいんだ。婆さんも綺麗な人だったから参観日なんて友達から羨ましがられるのが嬉しかった。それに親以上に厳しくて優しくてさ、俺は恵まれて育ったんだよな」  『毎日孫の前でおはようのキスするんだぜ』そう笑いながらその当時を思い出す清藤の表情は穏やかで優しく頬が緩んでいる。  本当に愛されて育てられたことが窺える。親がいなくて寂しかっただろうと思うのは他人が思うことで、それ以上の愛情で満ちた幼少期に真田の胸につかえていたものがスッと無くなった気がした。  「お爺さんに感謝しなくちゃですね」 「なんで?」 「こんないい男に育ててもらって」 「ははっ、そんなことを言うのはお前くらいだよ」   そんなことはない。清藤に憧れる社員は沢山いる。容姿だけではない。信頼できる上司で頼り甲斐がある。そんな上司に恵まれる自分はラッキーだと真田は思っている。  いつか清藤の隣に並べるようになりたいと思っていた。 「俺も頑張りますよ。友さんに追いつきたい」 「すぐに追いつくさ。元希はパワーも行動力もある。それに俺の部下だからな」 「じゃ、友さんについていけば間違いなしですね」 「そう言う意味じゃないよ。お前に実力がつけば押してやれるって話」  そう言われて真田の心は少しざわついた。足取りの重くなった真田を振り返り清藤は上司の顔を見せた。 「恋人だからって文字(えこひいき)依枯贔屓はしないよ」  勘のいい上司には何もかもお見通しだと苦笑いを浮かべる。 「俺が営業から引き抜いたんだ。頑張ってくれよ」  そう言いながら隣り並んだ真田の手の甲を清藤の小指は優しく突ついた。

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